44話 てれすの気持ち
「………………」
てれすがパンをかじって、わたしはハンバーグを口にする。………もぐもぐ。そして噛んでいる間、目の前のてれすを見つめる。
じー……………。
「………………」
わたしの視線に気づいたてれすが目をそらすように、パンを食べる。それを見てわたしはとりからを一口。…………もぐもぐ。咀嚼の間、再びてれすに視線を送る。
と、そんなわたしに耐えかねたてれすが、きちんとパンを飲み込んでから口を開く。
「な、なにかしら…………?」
それはこっちが聞きたいんですが………。
美月ちゃんとお話をちょっとしてから席に戻ってくると、てれすがこんな調子であった。
いったい、あの時間に何があったというんだ…………。
食べていたパンの消費期限が切れていた? ………いや、それならパンを食べ続けない。
クラスの子から何か言われた? ………でも最近はちゃんと授業にも出てるし、4月の最初に比べたらいいから、それもないと思う。
…………え、ほんとに何?
「てれす、どうかしたの………?」
仕方ないので、てれす本人に聞いてみる。
いくら考えてもわからないからこれしかない。てれすは気まずそうに言う。
「い、いや、別に何も…………」
うーん…………。
これはあれをするしかない。名付けて、ハンバーグ作戦である。………そのままだね。
「てれす、あーん」
わたしは美味しい美味しいハンバーグを一口分、おはしで掴んでてれすへ向ける。てれすは一瞬なにやら葛藤していたみたいだけど、やがていつものように口を開いて待つ。
「どう? おいしい?」
「ええ、すごく」
もぐもぐしながらてれすはうなづく。
それはよかった。
では本題にいこうか。
「それで、何があったのか教えてほしいな………」
わたしが訊ねると、てれすは下を向いて小さくつぶやいた。
「…………たから」
「え?」
あまりに小さすぎて、まったく声が聞き取れず思わず聞き返す。するとてれすは振りきったように、ほっぺを赤らめて言う。
「ありすが、あの子と楽しそうに話してたから…………」
「え……………?」
えっと、つまりは…………。
「えへへ」
「その顔やめてもらえるかしら………」
てれすが照れたように、ぷいっと顔をそむける。
………思わず頬が緩んでしまった。
そっかー、そうなのか。いやー、なんだろうね、なんとかニヤニヤをとめないと。
「ご、ごめんてれす」
「……………」
たぶん、てれすが求めているのは謝罪ではない。ということは、だ。
「明日は一緒に帰ろ?」
わたしがそう言うと、てれすはやっとわたしの目をいつも通りに見てくれた。
「…………ええ」
てれすはうなづいて、さらに続ける。
「あの、ありす。………ごめんなさい」
「ん、いいよ」
これにて一件落着。…………ってはやくお昼ご飯を食べなきゃ。もう時間があまりない。
ハンバーグ!




