36話 いらっしゃい
駅からしばし、てれすとおしゃべりしながら歩いて、わたしの家に帰ってきた。
そういえば、友達を家に連れてくるのはすごく久しぶりな気がする。
「ただいまー」
「お、おじゃまします………」
わたしに続いて、ちょっと緊張した面持ちでてれすも中に入って、靴を脱ぐ。
てれすが靴の向きを丁寧に直すと、わたしが帰ってきたことに気づいたらしいお母さんが、ニコニコしながら奥の部屋から現れた。
「おかえり。あら、いらっしゃい」
今はいつも観ているドラマの再放送があるはずなんだけど、昨日からてれすが来ることをわたしよりも楽しみにしている様子だったからなぁ………。
すると、てれすは自分のバッグから四角い箱を取り出しお母さんに渡した。
「あの、これ。つまらないものですが………」
お母さんは少し驚いた顔をしつつも、すぐにいつもの調子に戻って、てれすから受けとる。
「ご丁寧にどうも。でも、次からはなにも持ってこなくていいからね」
それから、お母さんは確かめるようにてれすに訊ねた。
「てれすちゃん、であってるわよね?」
「あ、はい………」
何を言われるのだろう、とてれすが背筋を伸ばす。
お母さんは、ニコッと微笑んで言葉を発した。
「いつもありすがお世話になってます」
お母さんの言葉に、てれすは困ったようにわたしを一度見てからぎこちなく返す。
「いや、あの………。わたしこそ、いつもお世話になってます」
そんなてれすの言葉が意外だったのか、お母さんは目をパチパチしてわたしを見る。が、すぐに笑顔に変わった。
「あら、そうなの?」
お母さんがてれすの言葉をどう受け取ったかはわからないけど、なんだか少し気恥ずかしい。なので、この場を離れようとてれすをつれてわたしの部屋に向かうことにした。
「別に、普通だよ普通だよ。行こ、てれす」
「え、ええ………」
わたしに引っ張られながらも、てれすはお母さんの前を通るとき軽く会釈する。そんなわたしたちを、お母さんはやっぱりニコニコしながら見送っていた。
「ゆっくりしていってね」
わたしの部屋は2階にあるので、階段を上る。そして、ありすの名前が施されたプレートがかかっているわたしの部屋にてれすをご案内。
「どうぞ」
「ええ」
わたしの部屋はベッドに学習机、テーブルに本棚という普通な感じのお部屋だ。一応、てれすが来る前に片付けはしておいたけど、てれすはどんな反応をするのだろう。
そのてれすは、興味津々に部屋を見渡す。
自分の部屋を見られるって、なんか恥ずかしいね。
「キレイに整理整頓されているのね。素敵なお部屋だと思うわ」
「あ、ありがと。あ、適当に座ってよ」
わたしに勧められて、てれすが腰を下ろしはじめると、わたしはその向かいにテーブルを挟んで座った。
てれすはまだ、落ち着かない様子できょろきょろしているけど、さっそく宿題を始めさせてもらおう。
「さ、宿題しよ?」
わたしに声をかけられて、てれすははっとしつつうなずく。
「ええ。…………ところで、宿題って何があるのかしら?」
「英語の訳だよ」
ほら、これ。と教科書を開いててれすに宿題のページを見せる。
ページを確認したてれすは、バッグからノートを取り出して始める体制になった。
「じゃ、やりましょうか」
「うん」
……………………。
無言。お互いに無言。
ただシャッシャとシャーペンが文字を書く音だけが聞こえる。
宿題も多いわけじゃないし、この調子だとすぐに終わるだろう。
というか、今回の宿題はこれだけしかない。
終わってからのことも、考えないとなぁ………。




