33話 ありすの好みは
そんなこんなでお昼休み。
これから季節は夏に向かっていく中、ずっと屋上でご飯というのはさすがに暑い。だからそろそろ室内での昼食にするべきだろう。
前にてれすにも言ったし。
というわけで、今日からここで食べようとわたしは、てれすに提案する。
「ね、てれす? 今日からお昼、ここで食べない?」
するとてれすは、前に話していたことをすぐに思い出してくれたのかうなずいた。
「そういえば、そんな話をしていたわね。ええ、そうしましょう」
そしててれすは、わたしが机の上に出したお弁当箱をちらっと見て立ち上がる。
「わたしはパンを買ってくるわ。先に食べてて」
「わかった、いってらっしゃい」
てれすが財布を持って教室を出るのを見届けてから、わたしは机上のお弁当に向き直る。
先に食べててと言われたので、お先にいただくとしよう。
オープン。
今日のメインは何といってもこれ、鶏のからあげ。みんな大好きとりからである。
ちょっぴり残念なのは、お弁当だから冷めてしまっていること。揚げたて熱々が一番美味しい。けど、冷めても美味しい。つまり、とりからは強い。
では一口。ぱくっ、もぐもぐ…………。
うん、おいしい。
ご飯との相性が良いのも素晴らしい。
「美味しい………」
わたしがとりからの美味しさに浸っていると、購買の袋を提げたてれすが帰ってきた。
「あ、おかえり」
「ええ」
てれすは短く返して座ると、袋から焼きそばパンを取り出した。
そして、教室の周りに目をやるとパンを食べることなく、わたしに訊ねる。
「ここの席、使ってもよかったのかしら………?」
心配そうなてれす。
ふむふむ。つまり、今日からわたしたちが急にこの席を使い始めたから、前までいた人たちの邪魔になると。
でも、そこは安心してほしい。
ちゃんと近くの子に確認とったから。
わたしだって、他の人の場所を取るなんてことはしたくない。
で、近くの子に聞いた結果なんだけど、ここは誰も使っていなかった。たぶんだけど、てれすの席を使うのが怖かったというか、遠慮したんだろうなぁ………。
「大丈夫。誰も使ってなかったみたい」
「そう、それならよかった」
てれすが安心してパンをかじったので、わたしもとりからに戻る。
うん、やっぱり美味しい。
と、てれすから視線を感じた。
「ほーひたの? もぐもぐ………」
食べながらしゃべる少しお行儀の悪いわたしに、てれすはちゃんと飲み込んで口の中を空にしてから言葉を告げる。
「ありすって、そういうの好きよね」
「………………?」
わたしはもぐもぐしながら首を捻る。
「ありす、カレーとかコロッケとか餃子とか好きでしょ?」
てれすの質問に疑問を抱きながらも、わたしは頭に、その料理たちを思い浮かべる。
カレー。コロッケ。餃子。
…………最高ですな。
そして、今度はしっかり口の中のものを飲み込んでからわたしは答える。
「うん、大好き。………って、なんでわかったの?」
てれすにわたしの好みを教えたことあったかな……?
ハンバーグとオムライスなんかは、お昼ご飯のときに言ったかもしれないけど。うーん………。
てれすは、柔らかい笑みを浮かべながら口を開く。
「なんとなく、かしら」
えぇ………。
ただの偶然ってこと?
………でも、自分の好みを知ってもらってるって、なんだか嬉しい。
わたしも、てれすの好きなもの知りたいな………とここで、大事なことを思い出した。
アプリのやつ、交換しなきゃ…………。




