3話 わたしとお話、したいんでしょ?
一時間目が終わるとすぐに、高千穂さんは教室の外へと出ていってしまった。わたしは慌てて追いかける。
ろうかに出るとすぐに高千穂さんの背中を見つけることができた。わたしが声をからけれる程度の距離になるときには、3階へと階段で上がろうとしているところだった。
「あ、あのっ! 高千穂さん!」
わたしの言葉に足を止めて高千穂さんが振り向く。
「……なに?」
めんどくさいなぁ感が全身からにじみ出て、用があるなら早くしてくれと目で訴えかけてくる。
「え、え~と、その……」
マズい。話しかけたものの、ほぼ勢いで声をかけてしまったのでわたしは返答に困る。どうしようか思い、とりあえず単純な疑問をぶつけてみた。
「あ、まだ一時間目が終わっただけだよ。どこに行くの?」
「……別にどこでもいいでしょ」
「よくないよ。ちゃんと授業受けなよ」
わたしが言うと、高千穂さんはばつが悪そうな顔になる。
「じゃあ、気分が優れないから保健室に行くわ」
「上に行こうとしてたじゃん。保健室は一階だよ」
あと、じゃあって言ってるから。そんなの信じられない。
高千穂さんは、はぁ……、とため息をつくと、こっちに歩いて来てくれる。
よかった、授業に戻ってくれるみたいだ。
と、思ったのもつかの間、高千穂さんはわたしの真っ正面で立ち止まる。
「あなた、さっきからなんなの?」
……怒ってる。これ怒ってるよね。口調は落ち着いているけど、これ怒ってますよね。
わたしはそんな高千穂さんに動揺してしまいつい本音が口からでる。
「ご、ごめん。わたしはただ、高千穂さんとお話がしたかっただけなの……」
わたしの言葉が思いもよらないものだったのか、目をパチパチさせている。
それはそうだろう。いきなりあなたとお話がしたい、なんて言われても。
「…………は?」
「い、いや、だから、高千穂さんとお話しがしたいなぁって……。ご、ごめん……」
高千穂さんはそう、と短く答えるとほんの少し考え、くすりと微笑むとゆっくり言葉を紡ぎ出す。
「…………なら、行きましょ?」
くるりと向きを変え、再び階段を上っていこうとする高千穂さん。
どういうこと?
「あの、行くってどこに……?」
高千穂さんはわたしの質問にもう一度ため息をつくと、わたしのほうにずいずいと歩いてくる。そして、わたしの手をとって言う。
「わたしとお話、したいんでしょ?」
高千穂さんはふふっ、と笑うと繋いだ手を引っ張ってわたしを上の階へと連れていく。連れていかれる……。
あ、高千穂さんの手、柔らかくて温かい……。ってそうじゃない。
「え、えぇっ?! ちょっと待って、高千穂さん!」
わたしは引っ張られながらも、思わず声を上げて抗議する。
が、高千穂さんが一言。
「あなたが言ったことよ」
「そうなんだけどぉ…………」
どんどん引っ張られていく。自分でもがんばって足を動かさないと転んでしまいそうだ。
「で、結局どこ行くの?」
「サボりの相場といったら、だいたい決まっているわ」
「え、今サボりって言った?! いやだよぉ……」
弱々しく訴えるわたしに、非情にも2時間目を告げるチャイムが鳴り響き、泣く泣く諦めをつけた。
結城天です。こんにちは。
ありすとてれす3話、読んでくださった方々ありがとうございます。
やっと、二人が絡みました。
高千穂さんに連れていかれましたね(笑)
では、次のお話もよろしくお願いします。