29話 番号教えるね
今週の土曜日にわたしの家で、てれすと一緒にテスト勉強をする約束をしてから5、6時間目の授業が終わり、放課後になる。
その間に一つ気付いたことがあり、わたしはこの時を待っていた。
6時間目の教科担任の先生が教室を出ていき、みんなが帰りの支度を進めるなか、わたしはてれすに呼び掛ける。
「ね、てれすてれす」
「どうしたの?」
わたしの言葉にてれすが顔を向ける。
「てれす、わたしの家の場所知らないよね?」
ま、当たり前なんだけど。
今知っていたら、正直怖い。
てれすは、わたしの質問に素直にうなずいた。
「ええ、もちろん」
だよねだよね。だからこその問題にわたしは気づいたのだった。
「土曜日、わたしのうちに来れなくない?」
そんなわたしの言葉にてれすは、はっとした表情になる。
「……………たしかに。どうすればいいのかしら………?」
やっぱりてれすも気づいていなかったらしい。
でも、そこは安心してください。問題を出すだけでなく、ちゃんと解決策も考えました。
わたしはカバンを開けて、そのために必要なものを探る。
「大丈夫。わたしに任せて……………ってあれ?」
いくら手を動かして探しても、お目当てのものが見つからない。
どうしたっけ…………。わたしは記憶をたどってみる。
「ありす、ほんとに大丈夫なの? というか何を探しているの?」
てれすが心配そうに声をかけてくる。
おかしいなー。あ、そういえば家かも。
「え、いやね? ケータイどこかなって。電話とかアプリのやつとかできたら、なんとかなると思って」
まぁ、その肝心のケータイが今手元にないんだけど。
わたしは諦めてカバンから手を出す。
「うん、家に忘れたみたい」
「それじゃ、ダメじゃない………」
てれすが呆れたように言う。
たしかに、今交換するのはダメだ。でも、代わりのことを思い付いた。そうするしかないね。
「交換はできないけど、わたしの番号教えるから今日の夜かけてきてよ」
別に明日改めてしてもいいけど、善は急げともいう。
こういうことは、思い付いたそのときにしよう。
てれすも、わたしの提案にうなずいた。
「わかったわ。…………って、ありす。自分の番号覚えているの?」
「へ? うん。てれすは違うの?」
みんなそういうものだと勝手に思っていたから、思わず聞き返した。
てれすは数字とかすごく覚えてそうなんだけど。
「わたしはまったく覚えたていないわ。まず、ケータイをあまり使わないから………」
「そうなんだ。…………もしかして、こういうの迷惑だったりする?」
ノートの切れはしに番号を書きながら、心配になったわたしはてれすに訊ねる。
「いいえ、そんなことない。…………むしろ、嬉しい」
「それはよかった」
そう思ってくれてなにより。
わたしは、はいっと番号を書いた切れはしをてれすに渡す。
「ありがとう。今夜かけるから」
「うん、楽しみにしとく」
と、ここでもっとてれすとおしゃべりしたいところだけど、そうもいかない。
今日は担任の先生に呼ばれている。………クラス委員だから仕方ないけど。
「それじゃ、てれす。わたし先生のところ行くね」
「ええ。………また」
「またね」
てれすに手を振って、急ぎ足で職員室に向かう。
ちょっとゆっくりしすぎだかも。
今日の夜が楽しみだなぁ。
ケータイをたまたま忘れてよかったのかもしれない。
そう思いながら、わたしは早歩きで廊下を歩いていった。




