24話 となりのてれす
わたしの日頃の行いの善さにラッキーが重なって、見事隣の席がてれすになった席替えを終え、授業と学校はいつも通り進んでいく。
そんなことさえも、楽しく迎えられているわたしとは裏腹に、てれすは寝ていた。ガッツリ寝ていた。
おしゃべりは他の人の迷惑になっちゃうかもだから、授業中はあまりできない。にしても、せっかくの隣なのだから何かあってもいいのではないでしょうか。
なんて考えながら寝ているてれすに視線を送るも、それにてれすが気付くはずもなく、なおかつ授業にも集中しなければならないので視線を前へと戻す。
ノートをとったり、先生の話に耳を傾けたりしていると、隣のてれすに動きがあった。
机に突っ伏していたてれすが、ふいにむくっと起き上がり顔を窓の方へと向けて、そのまま止まった。
…………鳥でもいたのかな。
そう思っててれすの視線をたどってみるも、ここからでは何も見えない。もしかすると、てれすの位置からしか見えない何かがいりのだろうか。
すると、てれすが窓、つまり外に向かって手を小さく振った。
え、ほんとに何がいるの!? 何も見えていないからちょっと怖いんだけど!?
と、そのてれすがわたしの方に振り返った。
「ありす、無視はひどいわ」
「え?」
無視って何のことだろう。
さっきまでてれすはあっちを向いていたし、そんなことしていないと思うけど………。
わたしがてれすの言ったことがイマイチわからず首を捻っていると、てれすがちょいちょいと窓ガラスを指差した。
「ほら、これ」
指差されたその先、そこには窓ガラスに映る、わたしとてれすの姿が。
「あ、そういうこと…………」
どうやら、窓ガラスが鏡みたいな役割をして、そこに映っていたわたしにてれすは手を振ったらしい。
てことは、わたしが見ていたのはバレていたのか………。
きゃっ、恥ずかしいっ!
………なんてのは冗談にしても、まったく気付いていなかった。
「ご、ごめん、てれす。全然気付いてなかった………」
「いいのよ。気付いていなかったのなら、仕方ないわ」
わたしの謝罪に、てれすはうふふと許してくれる。
しかし、その笑顔が疑念に変わった。
「あら………? 気付いていなかったのなら、どうしてこっちを見ていたのかしら………?」
あごに手を当て、思案顔のてれす。
「え、えーと………」
窓に映っていたとか関係なしにただただてれすを見ていた、なんて恥ずかしくて言えない。
ただ見ていたなんてわたしは恋する乙女か。
はっ!? まさか、これが恋なの………!?
………まぁ、そんなことは違うにせよ、てれすの質問にはどう答えたらいいのやら。
わたしが考え込んでいると、てれすが閃いたような顔をした。
「あ、そういうことね」
「え………どういうこと?」
ふふん、と胸を張るてれすに、恐る恐る訊ねてみる。
まさか、気付かれた………?
するとてれすは窓の外の空を指差した。
「ありすはあの雲を見ていたんでしょう?」
雲………?
まったく違うけど、そういうことにしておくとします。
てれすの指の先には、円柱を半分にしたみたいな、横に長い雲があった。
「あの雲、何かに似ているのよね……」
うーん、と唸るてれす。
そしてすぐさま答えを導きだす。
こういうのをアハッとする体験と言うんだっけ?
なんか脳にいいらしい。
「あの雲、ようかんに見えない?」
よ、ようかん?
てれすの答えに戸惑いつつも、もう一度あの雲を見上げる。
………言われてみれば見えなくないこともない、かな?
わたしは、そのようかん型の雲に満足げなてれすに、感想を述べた。
「し、しぶいね………」




