21話 勝利の女神は
わたしのミラクルプレーから、わたしたちは持ち直した。
勢いそのままにこのゲームを取り返して4ー4の同点に追い付く。
「よしっ、ここキープよ」
次はてれすのサーブの番であり、このゲームをとった方がリーチをかけることになる。
素人のわたしにも、このゲームの大切さがわかった。
「よろしくね? てれす」
「ええ、もちろん」
わたしの言葉にてれすは力強くうなずく。
とっても心強い。でも、てれすに頼ってばかりもいられない。わたしもわたしにできりことをやらないと。
そう思って、わたしは前の立ち位置につく。
わたしがなぜ前にいるのか。それは簡単。てれすの邪魔にならないためだ。わたしも後ろにいたら、きっとわたしばかりが狙われる。
だからわたしはここにいるわけだけど。ここにいて、ちょっと気付いたことがあった。
わたしのミラクルプレーから、北川さんがわたしを狙う回数が明らかに減ったのだ。
おそらくだけど、あのときの会場の雰囲気だと思う。
もう一度わたしがミラクルを起こすと間違いなく会場は、わたしたちの味方になる。
北川さんはきっと、そんな見えない力を警戒しているのだと思う。
まぁ、あれをもう一回するのは絶対に無理なんだけど………。
とはいえ、やっぱり北川さんは、わたしは狙わずてれすと打ち合っている。後半になってから、わたしはノーマークに近い。
そんなとき、わたしは思った。
……………いけるかも。
ラリーを見守り、タイミングを合わせる。
てれすが返し、それを北川さんが打つ瞬間に、
「今だっ」
動画でちょっと見た感じで、するするすると真ん中に出る。
わたしのまさかの行動に北川さんは驚愕の表情を浮かべたもののもう手は止められず、わたしにむかってボールは一直線に向かってくる。
「ありす! 引いて!」
「ふぇ!?」
根性でなんとか当てる気満々だったわたしは、急にかけられたてれすの言葉に思わず振り向いてしまった。
その直後、わたしの横をボールが通り抜け地面に落下する。
「アウト。ポイント、最上・高千穂ペア」
審判がそう言ってから、てれすがわたしを呼んだ理由がわかる。
そういうことか…………。危なかった。
「ありがとうてれす。ラッキーラッキー」
もう少しで危うく触れてしまいそうだったので、てれすには感謝である。
「ええ。でもただのラッキーではないわ。ありすがとった点よ」
「え? でも北川さんのミスじゃ………?」
たまたまのラッキーな点ではないのだろうか。
「ありすに取られたくなくて逃げたのよ。本能的にね」
そういうものなのかなぁ。
向こうでは、北川さんと南山さんが仲良さげに話をしていた。何を話しているのかはわからないけど、お互いに笑っている。
と、わたしがそんな相手を見ていたからか、てれすがわたしを呼んで手を上げる。
そんなに羨ましげに見てたかなぁ、わたし。
てれすのせんとすることはつまりハイタッチ。
わたしはてれすの手に自分の手のひらを重ねる。
パチーンと、そんな気持ちのいい音が響いた。
「このまま一気にいきましょう」
「うん」
そんなてれすの言葉通り、わたしたちの押せ押せで試合は進んでいった。
北川さんへの精神的なダメージも少なからずあったのだと思う。
このゲームも取ったわたしたちは、イケイケムードでついに試合のマッチポイントまでやってきた。
………主に、てれすのおかげだけど。
とはいえサーブは北川さん、レシーブはわたしである。
場合によっては、これで流れが変わっちゃうことだってあると思う。気を引き締めないと。
北川さんがふわっとボールを上げ、ラケットを振る。
パーンという音とともにサーブがわたしへとやってくる。
「………っ」
なんとか、なんとか当てないと。
空振りだけはしないように………。
ボールに合わせるようにラケットを振ると、
「………あ、ありゃ?」
ボコッという変な音。どこに当たったのかもわからなかったけど、とりあえず返すことはできた。
でも、それだけじゃなかった。
「………くっ!」
わたしの打ったボールは、全然威力がなくて、北川さんと南山さんが大慌てで走ってくる。
一歩速かった北川さんが手を目一杯伸ばす。
一瞬の静寂。そして、悔しそうにうなだれる北川さん。
「ゲームセット。勝者、最上・高千穂ペア!」
わあっと今日一番の大きな歓声が上がる。
……え、勝った? 勝ったの…………?
「やった…………」
すぐには理解が追い付かなかった。けれど、それは徐々にわきだして来る。押さえきれないほどに。
「やったわね、あり……………うわっ!?」
「てれすっ! やったやった!」
わたしは押さえきれない感情で、てれすに抱きついた。
言葉にできないほど嬉しくて加減ができていなかったらしく、抱きつかれたてれすがうめく。
「ちょっ………くっ、苦しい………」
「え、あっ。ごめん、てれす」
てれすに言われてわたしは慌てて手を離す。
だかしかし、この喜び、嬉しさはまだまだ有り余っているわけで、どうしたものかと考えてわたしは両手を宙に上げた。
てれすは一瞬眉をひそめたものの、わたしのやりたいことをわかってくれたらしく、ラケットをゆっくり地面に置いた。
そして笑顔で、両手をわたしの手に合わせる。
大観衆の中でも、大きな歓声の中でも確かに聞こえたその音は、なんにも代えがたい格別なものだった。
「いった……………」
「………………」
……………思っていた以上にてれすが思いっきりハイタッチしてきたので、手のひらがすごくヒリヒリする。
それはてれすも同じようで、わたしたちは目が合うとお互いに笑いが込み上げ、大爆笑してしまった。
正直、格好はつかないけど、これはこれでわたしたちっぽくていいんじゃないかな………。
「げっほげっほ………」
あ、てれすがむせた…………。
結城天です。こんにちは。
まず、読んでくださったみなさま、
ありがとうございます。
やっとテニス編終了です。
次からは、普通の学園生活に戻ります。
ではでは、次のお話で




