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ありすとてれす  作者: 春乃
20/259

20話 決勝戦!

「うわぁ……」


 決勝戦が行われる会場のコートで、わたしは思わず声を漏らす。

 隣を見ると、さすがのてれすにも驚きの色があった。

 

 それもそのはず、午前中にはいなかった大観衆が、コートの周りを観客として埋め尽くさんばかりにいたのだ。


「て、てれす? 多くない?」


 その人だかりに圧倒され、てれすに声をかける。


「え、ええ……。他の競技がほとんど終わったから、みんながこっちに来てるのね……」


「な、なるほど……」


 それにしても多い。わいわいがやがや大にぎわいである。

 そんな風にわたしたちが会場の空気に驚いていると、ふいに声をかけられた。


「あら、決勝戦の相手はあなたたちなのね、最上もがみさん」


 声の主へ振り向くと、2人の女の子がいた。

 ポニーテールの女の子と、ショートカットの女の子で、この2人が決勝戦の相手らしい。


 が、その2人を見て、わたしは一瞬言葉を失う。

 このポニーテールガールはテニス部のエース、北川真きたやままことであり、もう一人はテニス部ではないものの、バレー部のキャプテンで、北川さんの親友の南山舞みなやままいだったのだ。


 まずい……。てれすはまだしも、わたしはこの2人と対等に渡り合える気が全くしない。

 わたしのせいで負けるなんてことになっちゃうかも……。


「き、北川さんと、南山さん……。よ、よろしくね?」


「ええ、よろしく」


 わたしが不安を胸にあいさつしていると、てれすがわたしの服の裾を引っ張る。


「ねぇ、誰なの?」


 あ、そっか。この2人は隣のクラスだし、他人に興味のないてれすは知らないのか。

 そう思って、わたしは2人を紹介する。


「テニス部エースの北川さん。で、こっちがバレー部キャプテンの南山さん」


 2人はよろしくと軽く会釈する。

 が、てれすは、


「ふーん……」


 まるで興味なし、という反応だった。

 ……それならどうしてわたしに聞いたんだろう。

 しかし、そんなてれすの態度が北川さんにはお気に召さなかったらしい。


「ちょっと、たしか高千穂たかちほさんだったかしら? たまたま決勝戦に来たのかもしれないけど、わたしは手加減しないわ。泣いても知らないから」


 北川さんが挑発ともとれる言葉をてれすに投げ掛ける。

 

 あっ、ダメだよ。てれす、負けず嫌いなんだから。


「あ、そう。それならわたしは手加減してあげましょうか? どうせ勝つのはわたしたちなのだし」


 売り言葉に買い言葉。2人の目線がバチバチと火花を散らし合う。……ように見えた。


「まぁまぁ、2人とも、ね?」


「そ、そうだよ、てれす」


 南山さんが止めに入ったので、わたしも慌てて中に入る。

 と、ここでタイミングよく審判の先生がやってきた。


「なにしてるの、もう試合始めるわよ? 準備して?」


 先生に言われ、2人はふんっ、と目線をそらし合う。

 その様子に、わたしと南山さんは苦笑いを浮かべた。


 そして、いよいよ試合開始なわけだけど。

 この決勝戦は、1セットマッチ。つまり6ゲーム先取で行うらしい。

 ……それがどうなのかはわからない。


 コイントスで、わたしたちが先にサーブとなり、てれすのサーブから試合開始。

 すっとボールを上げ、ラケットを一閃。


「……っ!?」


 今までとは比べ物にならないほど速いサーブ。

 わたしには到底無理そうに見えるボールなんだけど、北川さんはそれをさも当たり前のように打って返す。




 ―――そこから、一進一退の攻防となった。

 お互いにサーブゲームを取り合って3ー3。

 

 わたしの2回目のサーブなんだけど、ここにきてミスを連発。このゲームを取られてしまって逆転されてしまった。


「ごめん、てれす……」


 わたしはしゅんとして頭を下げる。が、てれすは首を横に振った。


「大丈夫よ、ここ、取り返しましょう」


 うん、そうだね。ミスをした分、なんとかがんばりたい。

 南山さんのサーブの番なんだけど、サーブを打つ前に、北川さんが話しかけてきた。


「なかなかやるやね。正直、驚いたわ。――――でも」


 南山さんがサーブを打つ。それをてれすが簡単に返すと、それは北川さんの元へ。


「―――でも、あなたはできても、お仲間はどうかしらっ!」


 北川さんの力強い、フルスイングの一打が前にいたわたしに向かって真っ直ぐに飛んでくる。


 うわぁっ!? 当たったら絶対痛い。

 怖い、けど……。


「きゃあ!?」


 わたしは悲鳴じみた声を上げつつもラケットは適当に前に出す。

 そして目を瞑って完全に顔を逸らす。

 

「ありすっ!」


 誰かがわたしの名前を呼ぶ声が聞こえたその瞬間、ラケットに重たい衝撃がはしる。そして思わずわたしはどてっ、と後ろに倒された。


「いたた……」


 恐る恐る目を開くと、北川さんの驚きに染まった顔が見えた。口をポカーンと開けており、次に相手コートでコロコロと転がるボールが確認できた。


「2バウンド。ポイント、最上・高千穂ペア」


 審判がそう告げると、会場がどっと沸いた。

 もしかすると、今日一番かもしれない大きな歓声。


「ナイスボレーよ」


 てれすが駆け寄ってきて、手を差し出す。

 

「たまたまだけど、ありがと」


 その手を借りて、わたしは起き上がる。

 本当に偶然、奇跡レベルである。

 適当に出したラケットに当たってくれた先ほどのプレーを思い返す。

 と、1つ気になったことが。


「ねぇ? さっきわたしのこと、呼んでくれた?」


「え!? き、気のせいじゃないかしら」


 急にぷいっもそっぽを向くてれす。

 あらあら……。


「…………な、なに?」


「なんでもなーい」


 嬉しさのあまり、ニヤニヤとてれすを見つめついたものだから、てれすが身をよじる。


 わたしが呼んでと言ったあのときから、おそらく初めて名前で呼んでくれた。

 あのとき1度呼ばれはしたんだけど、あれは頼んでやってもらったやつなので、ノーカン。

 自主的には初めてだ。

 

 むふふ……。

 ニヤニヤが止まらないわたしを、てれすは呆れたように見る。


「はぁ……まだ試合は終わってないわよ」


 はっ。そうでした。

 しかも、ここわ取り返さないとマズイ状態なんだった……。


「ごめん、てれす。がんばろ?」


「ええ、絶対勝つわよ、ありす」


 今度は間違いなく聞こえた。

 てれすの口からありすって。


「うん、勝とう、てれす!」



 さぁ、まだまだここから。

 決勝戦、がんばります!





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