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ありすとてれす  作者: 春乃
198/259

198話 恋占いおみくじ

 清水寺を訪れたわたしたちは境内を巡り、地主神社にやって来た。

 階段を上って鳥居をくぐると、右側にすぐ「恋占いおみくじ」と大きく書かれた看板を発見した。


 それを見て、わたしの前を歩いていた犬飼さんが振り返り、みんなに向けて言う。


「よっし! みんなで引こうよ」


「犬飼、好きな人とかいたっけ?」


 はりきった様子の犬飼さんに猫川さんが首をかしげて、からかうように尋ねた。

 

「いやいや! そうじゃないけど、ほら、縁結びって恋愛関係だけってわけじゃないじゃん!」


「……でも、ここ恋占いって書いてあるけど」


「細かいことはいいの! 今は女子校だからあれでも、未来はわからないでしょ! 引きたいの!」


 ほっぺたを膨らませて抗議する犬飼さんに、猫川さんが「ごめんごめん」と謝って、一人ずつくじを引いていく。

 今、実際に恋をしているかどうかは関係なく、やっぱりみんな恋愛の話とか憧れとか、人並みにはあるのだ。


 他の班員4人が引いて、あとはわたしとてれすだけ。

 わたしの後ろに立って、特に何の反応も見せていなかったてれすに、声をかける。


「わたしたちも引こ?」


「……ええ」


 お金の投入口に200円を入れて、おみくじを一つ手に取る。

 ここ地主神社のおみくじは上から大吉、吉、半吉、小吉、末吉、凶、大凶と全部で7つ。


 凶はまだしも大凶があるのにびっくりしつつ、どうか凶や大凶が出ませんようにと祈りながらくじびきを開いた。


「――あ、大吉!」


 番号とその左側に書かれている文字が飛び込んできて、わたしはほっと安堵の息を吐き出した。

 今年は元旦に地元の神社で引いたおみくじも大吉だったし、こいうやっててれすと一緒に修学旅行にも来られていることだし、良い一年なのかもしれない。


 金運や失物、旅行などは他のおみくじと同じようなことが書かれている。でも、さすがは恋占いおみくじ。恋愛や縁談といった項目は太字で4行も書いてくれていた。


「えーっと。チャンスはあるから確実にって、感じかな? あとは容姿だけじゃなくて、相手が考えていることをきちんと理解しようとしなさい、か」


 年内はまだまだいい日が続いてくれるのかな、と思いながら、てれすの引いたおみくじの内容が気になって横目で確認する。

 と、てれすは少し渋い顔をしていた。


「てれす、どうだった?」


「……小吉よ」


 予想していたものよりも悪くはない、というより、全然悪くないと思うけど、本人にとってはそうでもないらしい。

 少しトーンが下がって、落ち込んでいるような声色になったてれすをフォローするために言葉を探す。


「でもほら、書いてあることはよかったりするかも」


「そうね」


 首肯したてれすは、くじびきに再び目を落とした。わたしも一緒にてれすの引いたくじびきの文字を読んでいく。

 

「あ、ほら。ここ」


 わたしは待ち人の項目を指で示して、てれすを励ますように言う。


「相手は動かないってわけじゃなくて、自分から動けばいいことがあるってことじゃない?」


 実際にわたしもそうだったから間違いない。

 あの春の日。自分からてれすに話しかけようと決めて、話しかけたからこそ、今こうしてみんなで修学旅行に来られているのだ。


 ……といっても、これは恋愛じゃないからちょっと違うかもしれないけど。


 てれすがわたしの言葉をどう受け取ったかはわからない。

 でも、少なくとも心には届いたみたいだ。てれす自身もなにか思うところがあったのかもしれない。


 顔を上げて、優しくふわりと微笑む。


「そうね、ありがとう。ありす」


「ううん。てれす、そのおみくじどうするの?」


「どうって、大吉や吉以外はどこかに結ぶんじゃないの?」


「持って帰ってもいいみたいだよ?」


 恋占いおみくじのランク、と書かれているプレートに運勢のランクと説明、そして持って帰るべきなのか結ぶべきなのかも書いていた。


 それを見て、てれすは少しの間考えて、


「なら、持って帰ろうかしら」


「うん。そうしなよ」


「ええ。せっかくだものね」


 そう言って、てれすはおみくじを大事そうにお財布へとしまった。


 それからしばし、班の皆でくじの内容についてで盛り上がる。どうやら、わたしたちの班の中には凶や大凶を引いた人はいなかったらしく、それぞれが自分なりに解釈をして、前向きにとらえていた。

 

 のちに、わたしたちの他にも、参拝客が多くなってきたのでその場を離れる。

 少し進むと犬飼さんが、


「あ!」


 と大きな声をあげた。

 どうしたんだろう、と小首をかしげていると、犬飼さんが振り返って元気いっぱいに説明する。


「ほら見て! あの石あったよ! ほらほらねこっち!」


「……わ、ほんと。雑誌で見たことあるやつだ」


 犬飼さんのテンションにつられてか、猫川さんも目を大きくさせてわずかに興奮しているようだった。

 すでに他の学校の制服を着ている女子生徒が一人、石と石の間をゆっくりと歩いている。


「それじゃ、わたしから!」


 先に行っていた生徒が終わったのを確認して、犬飼さんがスタート地点の石の前に立った。

 それからわたしたちに「待っててよ?」と言ってから、目を閉じてスタート。

 

 周りの観光客の皆に見られていることなんてなんのその。犬飼さんは「わー!」とか「まだゴールじゃないの?」とか言いながら、進んでいく。


 ちょっとスイカ割りっぽいかも、なんてことを考えていると、その間に犬飼さんは無事クリアしたらしい。

 周りからまばらな拍手をもらいながら、こちらに戻ってくる。


「さ、次は高千穂さんの番、かな? 気を付けてね」


「え、わたし?」


「うん! だって、ねぇ?」


 何やら意味深な含みを持った瞳を犬飼さんがわたしに向ける。わたしはそれに、曖昧な笑みを浮かべて返した。


 そして、犬飼さんからご指名を受けた当の本人であるてれすは、逡巡したのち。


「……ええ、そうね」


 とうなずくのだった。


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