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ありすとてれす  作者: 春乃
196/259

196話 お笑いライブ

 遊園地を半日満喫したわたしたちは、バスに乗って道中をしばし揺られていた。


 本来なら、あれだけはしゃいだら疲れてクタクタになってしまって、バスの中でみんな眠っているかもしれない。

 だけど、今日はまだまだこれから。わざわざ遊園地をパレードが見れない時間までにしたということは、次の予定があるということなのである。


 バスは交通量の多い夕暮れの大阪の街を進んでいって、約40分。目的地に到着した。


「おぉ、ここが……」


 バスから降りて、わたしは目の前にある建物を見て、思わず感嘆の息を漏らした。


 遊園地に次いでわたしたちが来た場所、それはお笑いのライブをしている劇場だ。

 さっき言った遊園地と同じく、こっちもテレビではとく芸人さんがこの劇場の話をしていたりするから、こっちもすごく楽しみだった。


 先生に先導されて劇場へと移動する途中、隣を歩いているてれすに聞く。


「てれすはお笑いとか見たりするの?」


「いえ、あまり見ないかしらね」


「そうなんだ」


「ええ。でも、嫌いと言うわけではないわ。少し、楽しみだったし」


「そっか!」


「ええ。ありすは、お笑いは好きなの?」


「うん。うちはお母さんもすっごく好きだから、よくテレビで見るの」


 だから、遊園地よりもお母さんはこの劇場で生ライブを見れることを羨ましがっていた。

 わたしも生でお笑いを見るのは初めてだから、すっごく楽しみだけどちょっと緊張してきてしまう。


 わたしが今歩いているこの床だって、テレビで見ている芸人さんが歩いているところかもしれないのだ。

 というか、芸人さんたちはすでに劇場に来ているはずだから、どこかにいるはず。

 

 そう思うと、心が弾んでしまうのは仕方のないことだった。


 前を歩いている子に続いて、ずらっと席が並べられている劇場の観客席に入る。

 ステージの感じとかは体育館を思わせるけど、やっぱり違う。見た目はもちろん全然違うんだけど、空気感とかが違った。

 

 修学旅行生だからかはわからないけど、チケットに書かれている席はかなり前の方のいい席。ここからなら、芸人さんの顔もばっちり見える、そのくらいの席だった。


「……けっこう近いわね」


「うん。ラッキーっていうか、わくわくする」


「そうね」


 心なしか、てれすの口調も少しだけ弾んでいるように聞こえた。

 修学旅行生が観客席の前の方に固まって座って、先生が全員いるか確認をする。


 笑うときは思いっきり笑っていいけど、他のお客さんもいるから迷惑な行動は慎むように注意がされ、それから待つこと数十分。

 前説を務める芸人さんが出てきてお話をして、ライブがスタートした。


 何組も登場して、爆笑をさらっていく。

 わたしもお腹が痛くなるほど笑って、目には浮かんだ涙を指で拭っていると、次の漫才コンビが出て来た。


 スーツ姿のそのコンビを見て、わたしは目を瞠って前かがみになる。

 なぜなら、わたしとお母さんが今一番好きな漫才コンビだったからだ。


「どもー、三角ホットコーナーですよろしくお願いします」

「お願いします」


「これ僕のことなんですけどね」

「はいはい、なんですか」


「最近はまってることがあるんですよ」

「はまってる? 危ないって」

「何がよ」

「いや、だって穴とか田んぼとかやろ? 危ないって」

「なんでやねん! 物理的にはまる奴がおるか! 違うわ!」


「あっ、違うん?」

「違う違う。マイブームってことよ」

「あー、そういうこと?」

「そういうこと。それで最近ね、心理テストにはまってまして」


 ――という感じにネタが始まって、わたしは二人に引き込まれて終始笑っていた。

 これは明日、腹筋が筋肉痛になっているかもしれない。


 そんな風に最初から最後まで、位置から十まで笑いに包まれたまま時間は過ぎていった。

 最後に、最近はあまり劇場で漫才はしなくなったらしい、最近テレビのバラエティーでもよく見かけるようになった売れっ子芸人さんの漫才が終わり、ライブは終了となった。


「ん~、おもしろかったぁ!」


 席から立って伸びをしながら、隣に座っていたてれすに尋ねる。

 あまりお笑い番組、というよりもテレビ自体を見ないというてれすは、どう感じたのだろうか。

 

 わたしはずっと笑っていたから気のせいかもしれないけど、てれすの笑い声はあまり聞こえてこなかった気がする。

 楽しめたのだろうか。


「てれすは、どうだった?」


「おもしろかったわ」


「そ、そう?」


「ええ。どうして?」


「いやあ、その。あんまり笑ってなかったみたいだし」


「いえ、普通に面白かったし、笑ったわよ?」


「そっか、ならよかった」


 てれすがそう言うのであれば、そうなのだろう。


 それに、てれすは普段から声を大きくして笑ったりしないから、こういう場所でもそうなのかもしれない。

 むしろ、てれすがお腹を抱えて笑っている姿はイメージがわかないから、てれすが楽しかったらおっけーです!


「あの、真ん中くらいで出てきた、心理テストのコンビが一番おもしろかったわ」


「ほんと?!」


「え、ええ……」


 思わずてれすにぐいっと近づいてしまったので、てれすが若干引き気味だった。

 軽く頭を下げて、腰を下ろす。


「ご、ごめん」


「いえ、構わないけれど……」


「えっと、そのコンビ、わたしもお母さんもすごく好きなの」


「そうなの?」


「うん。だから、てれすもおもしろいって言ってくれて嬉しくて」


「そうだったのね。おもしろかったから、他の漫才も見てみたいと思ったわ」


「うちにライブのDVDあるから、今度一緒に見ようよ」


「いいの?」


「もちろん。約束ね」


「ええ」


 それから、わたしたちはバスに乗り込んで、ホテルへと移動した。

 明日はいよいよ京都での自由研修。

 修学旅行の終わりが近づいてきているのがわかって寂しいけど、すごく楽しみだ。


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