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ありすとてれす  作者: 春乃
192/259

192話 はっきり言えるのは

「てれす、ちょっといい?」


「え? ええ、いいけれど……」


 わたしが言うと、てれすは少し眉をひそめつつもうなずいてくれた。

 ひとまずは、話し合いが出来そうで安心する。


 提案してくれた高井さんのほうを見ると、高井さんはてれすがわたしの隣に腰を下ろしたのを確認して、立ち上がった。


「それじゃ、最上さん。わたしたちはあっちでお土産を見てるから」


「あ、うん。ごめんね」


 わたしのせいで気を遣ってもらって、申し訳ない。

 前もそうだったし、なんだか自分だけ成長できていないみたいで情けなくなってくる。でも、こんなに素敵な友達をもったことが嬉しかった。


 高井さんは嫌な顔一つしないで、笑みを浮かべてくれる。


「いいよいいよ。気まずいほうが嫌だし。わたしたちのことは気にしないで、じっくり話し合いしてよ」


 そして高井さんは赤川さん、犬飼さん、猫川さんを連れて、少し離れたところにあるお土産屋さんへと移動していった。


 高井さんたちの恩に報いるためにも、ちゃんとてれすと話し合いをしなくては。

 俯き加減のてれすに話しかける。


「てれす」


「……なにかしら」


「わたしさ、また何かしちゃったんだよね?」


「別に、そういうわけじゃ……」


「そんなことないよ。って言っても、なんでかわかんないの。ごめん」


「…………」


 てれすのこと、少しはわかってきたと思ったけど、まだまだ何もわかってない。わかっていた気になっていただけなのかもしれない。


「だから、嫌なことしちゃったんなら、言ってほしい。お願い」


「いえ」


「てれす」


 わたしが名前を呼ぶと、てれすは俯いていた顔を弾けたように上げた。わたしとバッチリ目が合う。


「お願い。せっかくの修学旅行だし、このままは嫌なの。教えて、教えてください……」


 頭を下げると、てれすが「ありす……」とつぶやき、短い息を吐いたのがわかった。それから数秒の時間があって、てれすが話し始める。


「頭を上げて、ありす」


「でも」


「……きっと、ありすだけが悪いわけではなくて、わたしも悪いから」


「え?」


 てれすも悪い?

 どういうことか意味が分からず首をかしげると、てれすはわたしから目を逸らして、小さな声で言う。


「二人でいた時、ナンパからありすが助けてくれたじゃない?」


「うん」


「嬉しかった。本当に。……でも、そのあと」


 そのあと。

 となると、これはもう一つしかないと思う。


 ナンパに諦めてもらうために、「付き合っている」という嘘を吐いたこと。

 それほど、てれすは嫌だったということだろう。てれすを助けるためだとはいえ、勝手に恋人と言ってしまったのは本当に反省している。

 

 てれすが怒ってしまうのも、無理ない気がする。

 本当に、どうして付き合っている、なんて言ってしまったのか。自分でもよくわからない。


「ごめん。やっぱりあれだよね。ごめん……」


「ええ、そう。それなのだけど――」


「ほんとごめん。勝手に恋人っていうか、付き合ってるって言っちゃって。気分悪かったよね……」


「え?」


「え? 違うの?」


 予想だにしなかった、てれすの反応にびっくりしてしまった。

 てれすが引っかかっていた部分は絶対にそれだと思っていたから、ちょっと頭の中がパニックだ。


「え、ええ……そうではなくて……」


「どういうこと?」


「わたしは、それは気にしていないの。ありすが機転を利かせてくれたわけだから、むしろ嬉しかった」


「ちょ、ちょっと待って。それじゃあ、何を怒ってたの?」


「……あの後、ありすがすごく否定してたから、なんか、すっごく拒絶されたっていうか」


 視線を下げているてれすの声は、言葉を探しながらの発言なのか歯切れが悪く、とてもか細い。


「別に、ありすと恋人がどうとか、付き合うのがどうってわけではなくて……ありす、何度も否定するから、ちょっと……」


 てれすはそこで一旦言葉を止めて、顔を上げた。ほっぺたを朱に染めながら、わたしをじっと見つめてくる。


「なんか、嫌だったわ……」


「てれす」


「……ごめんなさい。やっぱりありすは悪くないわね。わたしがおかしいのかも」


「そんなことないよ」


 てれすに指摘されるまで、気が付かなった。

 内容は反対だったけど、やっぱりわたしのせい。


「ごめん。気になってたことがあったとは言っても、たしかに言い過ぎたかも」


「いえ、ありすは」


「ううん、わたしだよ」


「いいえ」


「わたしだって」


「いえ、わたしが……」


 お互いに自分の責任だと主張して、譲らない。

 このままでは埒が明かない。


「ねぇ、てれす。もうさ、どっちも悪いってことでいいかな」


「……ええ、そうね」


 てれすも苦笑混じりにうなずいてくれた。 

 しかし、こちらをちらと見て、


「あの、ありす」


「なに?」


「一つだけ、聞かせてもらってもいいかしら」


「え、うん。いいけど」


「……本当に、わたしのことが嫌ってわけでは、ないのよね?」


「当たり前だよ!」


 恋人とか付き合うとかって言うのは、わからない。女の子同士だからって、ことも関係してるのかもしれないけど、それ以前に恋愛ってわからないから。


 でもはっきり言えるのは。


「てれすのこと嫌いになるわけないよ。拒絶も違う。だって、好きだもん」


「――ッ!?」


「どうしたの?」


「……いえ、なんでもないわ。えっと、ありがとう?」


「なんで疑問形? まぁ、えっとどういたしまして?」


 お互いに顔を見合わせて、くすりと笑い合う。


「てれす。気にしてるのって、これだけ?」


「ええ、心配させてごめんなさい」


「ううん、いいよ。それじゃあ、みんなのところに行こ?」


「ええ」


 わたしたちは高井さんたちの待っているお土産屋さんへと向かった。


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