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ありすとてれす  作者: 春乃
191/259

191話 高井さんの助言

「ごちそうさまでした」


 有名な魔法使いの映画がモデルとなっているエリアで、映画で主人公たちが食べていたご飯を模したランチを美味しくいただいて、わたしは両手を合わせる。

 ちょうどいい焼き加減でやられたジューシーなお肉と野菜もついていて、バランスのいいメイン料理を筆頭に、どのご飯もとても美味しかった。


 レストランだけでなく、料理もすごく世界観があって、空間全体が映画の世界に入り込んでしまったのかと、一瞬錯覚してしまうほど。

 みんなも同じ感想を抱いているようで、お茶やジュースを飲んで楽しく一息ついている。

 

 隣に座ってるてれすにちらと視線を送ると、てれすも大満足のようで口元が緩んでいた。

 ジェットコースターに乗ってきぶんがわるくなってしまったり、ナンパにあったりとハプニングもあったものの、どうやら大丈夫そうだ。


 ……と思いたいんだけけど。


「ッ!」


 てれすと目が合って、さっと避けられる。

 サメのアトラクションのあと、少し感じた違和感は気のせいとかではなく、やはり顕著なものとなっていた。幸い、わたし以外は気づいていないみたいだけど、それだけに、わたしが何かやってしまったのではないかと思ってしまう。


 心当たりは、ない。

 むしろ、何か気まずくなるというか、気にしてしまうようになるのはわたしのほうだと思う。ホテルで昨日てれすが話していたことが、やっぱり離れない。

 楽しく話をしたり、アトラクションに乗っているときは忘れられるんだけど、ふとしたときに思い出してしまう。


 と。

 てれすがおもむろに立ち上がった。

 

「てれす?」


「あ、いえ、そのお手洗いに」

「いってらっしゃい」


「ええ」


 短く答えたてれすは自分のリュックを持って、そそくさとお手洗いのある方へ歩き出した。

 それを見て、赤川さんも椅子から腰を上げる。


「わたしも行ってくる。高井は?」


「わたしはいい」


「そう? それじゃ行ってきます」


 高井さんに「いってらっしゃい」と送り出された赤川さんを見送って、わたしはため息を吐いた。


 なんだか、てれすと上手くかみ合っていない気がする。前にも――夏休みにもあったみたいな、そんな感じ。

 あの時はわたしの伝え方が悪くて、てれすに勘違いをさせてしまった。高井さんたちのおかげで仲直りできたけど、やっぱりまたわたしが……。

 

 心当たりと言う心当たりはないけれど、原因があるとしたらナンパのときに行ってしまったあの言葉。実際、あのあとからちょっと違和感があるから、そうだと思う。

 でも、あれはその場を凌ぐための嘘だって、てれすにはちゃんと伝えたし……。


 もしかすると、本当はまだ気分が悪いのかも? そんなことを考えていると、正面に座っていた高井さんに呼ばれた。


「ねぇ、最上さん」


「なに?」


「わたしの勘違いだったらごめん」


「え? うん」


「高千穂さん、ちょっと変じゃない?」


「……え」


「なんていうかさ、こういうの前にもあったよね」


 どうやら、高井さんも夏休みのカラオケでの出来事を思い出しているらしい。

 わたしだけでなく、高井さんも変だと感じている。ということは、やはり気のせいや勘違いではないのだろう。認めざるを得ない。


「……うん。そう思うよね?」


「うん。もしかして、わたしたちを二人で待ってた時に何かあったの?」


「実は――」


 4人を見送った後、わたしは飲み物を買いに行って迷子になってしまったこと。

 そして戻ってきたら、てれすがナンパにあっていたことを話した。


「え、嘘」


 説明を受けて、高井さんは目を大きくさせる。

 そして、話を聞いていた犬飼さんと猫川さんも同じように驚きと心配の色を顔に浮かべた。


「アタシたちがいなかった間にそんなことが……」


「えと……大丈夫だったの……?


「うん、それはちゃんと断ったら諦めてくれたから」


 わたしの言葉に、三人はほっと安堵したように息を吐いた。全然気にしなくていいのに、三人はきっと自分たちが他で遊んでいたせいで、と自分を責めているのだろう。

 

 申し訳なくと同時に、いい友達を持ったなぁと嬉しくもなる。と、高井さんが「それなら」と話しを続けた。


「高千穂さんはどうして変な感じに?」


「えっと……」


「?」


 言い淀むわたしに、三人は三人とも首をかしげる。

 急かすことなく、ただただ私の言葉の続きを待って、じっと見つめてくる。


 付き合っていると嘘を吐いた、言葉にすると簡単だけど、口にするのはなんだか恥ずかしい。いや、実際わたしとてれすは付き合っていないから、それは変? いや、でも恥ずかしい。


「最上さん?」

 

 せっかく話を聞いてくれている三人を待たせてはいけない、とわたしは覚悟を決めて口を開いた。


「……つ」


「つ?」


「付き合ってるって言って、断ったの……」


 みんなの顔を見ることができず、わたしは目をぎゅっとつぶった。

 しかし、待っても返事がないので不思議に思う。もしかして、聞こえなかったのだろうか?


 目を開けて様子を窺うと、三人ともポカンとしていた。

 代表して高井さんが尋ねてくる。


「あ、あの最上さん」


「うん」


「誰と誰が?」


「え?」


「付き合ってるって、誰と誰が?」


「わたしとてれすが」


「えぇ!?」


 高井さんと犬飼さんが大きな声をあげ、猫川さんは頬を赤くして俯いた。


「ちょ、ちょっと待って。違うの。ナンパを断るために嘘を言ったの!」


 わたしが訂正すると、三人は少し間を空けて顔を見合わせて破顔した。


「あ、そういうこと」


「なーんだ! 早とちりかぁー!」


「……ごめんなさい」


「いや、うん。わかってくれたなら、いいけど……。でも、てれすにもみんなと同じように勘違いされたらあれだから、違うって何回も言ったの。嘘だから気にしないでって」


「何回も」


「うん」


 首肯すると、高井さんはあごに手を添えて何やら考え込む。

 それから顔を上げて、わたしに言った。


「とにかく、一回高千穂さんとちゃんと話したほうがいいと思う。前もそれで仲直りできたんだし」


「……できるかな」


「できるよ。高千穂さんを信じて?」


「……そっか。そうだね。ありがとう、高井さん」


「いや、別にお礼を言われるようなことは」


「ううん。また助けてもらったから。犬飼さんと猫川さんもありがとう」


 三人にそれぞれお礼を言って、わたしの心は決まった。

 高井さんの言うとおり、考えてもわからないのなら本人に聞くしかないじゃないか。だって、いくら友達でも全部が全部わかるわけじゃない。


 もっと分かり合えるために、てれすに聞いてみよう。


 そう心の中で決めた時、ちょうどてれすと赤川さんがお手洗いから戻ってきた。


「てれす、ちょっといい?」


「え? ええ、いいけれど……」


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