19話 決勝戦前
決勝戦に挑むべく、お昼ご飯を食べ終えたわたしたちは決戦の会場のコートに向かっていた。
「はぁ……緊張する……」
会場が近づくにつれ、わたしの心拍数の上がっていた。
わたしが特別何かをするわけじゃないし、そんな期待もされてはいないとわかってはいるけど、ガッチガチに緊張していた。
一方のてれすはというと、いつも通りのすました顔だった。さすがてれす。略してさすてれである。
最上・高千穂ペアにとっててれすは、カレーライスでいうところのカレーとご飯。わたしは福神漬けみたいなもの。
いつも通りに見えるてれすは、いつも以上に心強かった。
「てれすは緊張とかしないの?」
会場まで黙って移動するのもなんかあれなので、てれすに話しかける。
「え、緊張? してるわ、たぶん」
「ほんと? 全然見えないなぁ」
てれすも緊張しているらしい。
見た感じはまさにいつものてれすなんだけど。
と、そんなてれすは笑いながら、
「わたしだって人間だもの、緊張くらいするわ」
そっか、そうだよね。
てれすも緊張しているのだとわかると、少しだけ気持ちが楽になった気がする。
そんな様子からわたしの緊張が伝わったのだろう、てれすは言葉を続ける。
「……そんなに緊張しているのなら、それを楽しむくらいでやったら?」
「へ? それってどういう……?」
緊張を楽しむ……?
わたしにはいまいちイメージが浮かばない。
そんなことを考えたこともなかった。
「せっかく緊張しているのだから、楽しまなきゃ損よ。あなたらしくいきなさい」
てれすはわたしを見て、優しく微笑みかける。
「わたしらしく、か……」
……そうだね。ちょっと弱気になっていたかも。
てれすに決勝戦まで連れてきてもらったんだもん、楽しんでやらなきゃ、てれすにも失礼だよね。
「よぅし! ありがとうてれす」
なんだか、吹っ切れた気がする。
楽しむこと。きっと球技大会で一番大切なことだ。てれすはそのことをわたしに教えてくれたんだね。
「勝ち負けよりも、大切なことがあるってことだよね?」
「ええ。そうかもしれない。……でも絶対に負けないわ」
あ、あれ……?
「たとえ負けても、楽しもう?」
「ええ。そうね。……絶対に負けないけど」
どうやらてれすの新しい一面を発見したらしい。
そのことにちょっぴり嬉しくなる。
「てれすって負けず嫌い?」
「そうかしら、わからないわ」
いや、どう考えても負けず嫌いでしょ。
そう思って苦笑を浮かべていると、てれすが何かを思い出したように声を上げた。
「そういえば……。手のひらに人と3回書いて飲み込むと、緊張が和らぐと聞いたことがあるわ」
「あ、それわたしも聞いたことある。どうなんだろうね」
てれすはふむとあごに手を当て、なにやら考えると、
「ちょっとやってみて? 効果があるようなら、次からわたしもやってみることにするから」
「えー、わたしで試すの……。効果あるかなぁ……」
「ま、期待はしないでおくわ」
「そうだね」
そうは言いつつもわたしはきっちり、手のひらに人と3回書いてから飲み込む。
てれすとのおしゃべりのおかげで緊張もちょっとは和らいだ。
もうすぐ。いよいよ。決勝戦が始まります。




