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ありすとてれす  作者: 春乃
189/259

189話 わかんないけど

 てれすとベンチに座って休憩していると、犬飼いぬかいさんからMINEのメッセージが届いた。スマホの画面を確認する。

 そこには数枚の写真と、ジェットコースターは楽しんだから、合流しようという内容が書かれていた。てれすのことを気遣って、こっちに来てくれるらしい。


「てれす、犬飼さんたちが集まろうって」


 内容をてれすに伝える。しかし、返事がないので心配になっててれすを見ると、てれすは何か考え事でもしているみたいに上の空だった。


「てれす?」


「あ、ごめんなさい」


「ううん。犬飼さんたち、こっちに来るって」


「……わかったわ」


 短く答えると、てれすは俯いて、再び黙り込んでしまった。

 

 もしかすると、まだ調子が良くないのかもしれない。あんなことがあったんだし、それも仕方のないことかなって思う。

 無理に話しかけるわけにもいかず、わたしも静かに犬飼さんたちが戻って来てくれるのを待つ。その間、さっきのことを思い出す。


 男性たちに諦めてもらうためとはいえ、いらぬ誤解を生んでしまったり、てれすに変に思われてしまったりしているかもしれない。

 話が通じる相手だったかはわからないけど、もっと冷静に話し合いをしたほうが良かったのかも。もしくは、係員さんを呼んでくるとか、方法は他にもあったような気がする。


 決しててれすとそういう関係に見られるのが嫌ってわけじゃない。あくまでわたしは、だけど。

というよりも前提として、イマイチ恋人とか付き合うとか、よくわからない。わたしとてれすは女の子同士ってこともあるけど、それ以前の問題として、恋愛とかよくわかんない、というのが本音だ。


 てれすのことは好きだし、これは絶対に違わないんだけど、周りの感じとか、テレビとかドラマで聞く感じだと、なんだかこの好きっていうのは違う。

 高校生にもなって笑われてしまうかもしれないけど、わたしがキラキラした少女漫画みたいな恋を知るのは、まだまだ先になりそうだ。


「……はぁ」


 思わず、ため息が出た。

 てれすに好きな人がいるってホテルで聞いたせいで、ちょっとおかしくなっていたのかもしれない。別にてれすに好きな人がいたって不思議じゃないし、悪いことでもない。友達なら、応援してあげないと。


 よしっとわたしは気を取り直して気合を入れる。

 修学旅行中なんだから、気にしすぎて楽しめないのはダメ。もったいない。

 いつかてれすから話してくれる日が来るだろう、とわたしは気持ちを切り替える。


 ちらっとてれすのことを横目で見ると、偶然視線がじっと合った。

 てれすは目を見開いて、


「――ッ」


 すぐにわたしから顔を逸らす。

 

「てれす、体調はどう?」


「え、ええ。問題ないわ」


「ほんと? まだ京都も残ってるし、無理しちゃだめだよ?」


「ええ。大丈夫よ」


 ちょっと心配だけど、本人がそう言うのであれば、たぶん回復してきているのだろう。

 ジェットコースターから降りたときに比べると、たしかに随分と顔色が良くなってきている気がする。

 

 あのときは青白いって感じだったけど、今は血色も良くていつもの凛として綺麗なてれすだった。


「…………」


「……あの、ありす?」


「あ! ごめん」


「構わないけれど、どうかした?」


「いや! なんでもないよ!?」


「そう?」


「うん」


 しん、と場に沈黙が流れる。


 ……ダメだ、なんだか変に意識しちゃう自分がいる。

 いつもなら黙っていても平気なのに、今日に限ってなんだか気恥ずかしいというか気まずいというか、居心地が悪い。

 今頃気づいたけど、座っているてれすとの距離が心なしかちょっぴり遠い気がした。

 それはきっと、いや、きっとじゃなくて、さっきの言葉のせい。


 てれすも意識しているのか、そわそわと落ち着かない様子だった。


 なので、自分のためにもてれすのためにも、そしてこのあと合流するみんなのためにも、この空気は戻しておかないと。


「てれす」


「……なに?」


「あの、しつこいかもしれないんだけど、さっきのは、忘れてくれていいから」


 どんな表情で話せばいいのかわからず、苦笑が浮かんでしまう。

 わたし史上で一番下手くそに笑っているかもしれないと思いつつ、話を続ける。


「とにかくさ、修学旅行なんだから、修学旅行を楽しもう?」


「……そうね」


 と同意して、てれすはわたしの方を見た。こくり、とうなずく。


「ええ、そうしましょう」


「うん」


 てれすとの距離を縮めて、4人が来るのを待つ。

 数分して、


「おーい!」


 大きな声で大きく手を振っている犬飼さんを先頭に、猫川ねこかわさん、高井たかいさん、赤川あかがわさんが帰ってきた。

 興奮冷めやらぬ、といったなか、高井さんがてれすに尋ねる。


高千穂たかちほさん、気分は?」


「ええ、問題ないわ」


「そっか、よかった」


 てれすの返答に、4人がほっと一安心する。

 そして、犬飼さんが「あ!」と思い出したかのような声をあげた。


「絶叫系じゃないやつ乗りに行こうよ。サメのやつ! どう? 高千穂さん?」


「ええ、それなら」


「よしきた!」


 ガッツポーズで喜ぶ犬飼さんに、てれすが苦笑する。

 絶叫系でないのなら、みんなで楽しめそうだ。


 わたしは立ち上がって、てれすに右手を差し出した。


「てれす」


「ありがとう、ありす」


 差し出した手を握って、てれすが立ち上がる。

 犬飼さんの案内で、わたしたちは絶叫系ではないそのアトラクションへ向かうのだった。


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