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ありすとてれす  作者: 春乃
184/259

184話 1日目・奈良

 修学旅行の一日目。

 わたしたちは新幹線に乗って新大阪駅にやって来た。綺麗な構内は平日だというのにすごい人で溢れている。


 わたしは初めて乗った新幹線の興奮そのままに、これまた初めて足を踏み入れた関西という土地に心が弾んでいた。

 迷子にならないよう、先生の声に従って全員で校内を歩いていく。

 今日の予定は奈良県なので、バスへ移動するらしい。


 らしいのだけど。


「ね、てれす」


「なに?」


「それ」


 と、わたしはてれすの手元を指で示す。

 てれすは、なぜかもぐもぐしていた。

 食べているのはワッフルのようだけど、さっき新幹線の中では持っていなかったような気がする。


 なら、どこから取り出したのか。

 わたしが首をかしげていると、てれすはさも当然とばかりに堂々と答える。


「美味しそうだから、そこで買ってきたの」


「えぇ」


「ありすの分もあるわよ、はい」


「あ、ありがとう」


 修学旅行だから、そういう勝手な行動はやめたほうが……と思いながらもらったワッフルを口に運ぶ。

 あ、美味しい。

 ふわふわなのはもちろんだけど、しみこんだ砂糖の甘さが染み渡る。たぶん、一番シンプルな味のものと思うけど、それゆえに王道で、とても美味しかった。


 ……ワッフルが美味しくて、なんだか注意するのを誤魔化された気がする。けど、隣を歩くてれすがあまりにも幸せそうな顔をしていたから、注意をするのも気が引けた。

 今回はてれすが迷子になったって事態にならなかったし、次から気を付けてもらおう。というか、わたしがてれすと一緒にいれば問題ない、気がした。うん、そうしよう。




 それからわたしたちはバスに乗り込んで奈良へ向かった。

 バスの中で、鹿には絶対に鹿せんべい以外はあげてはいけないことや、むやみやたらに触れてはいけないと注意を受けて、目的地に到着する。


 まず、春日大社でお参りをしてから、奈良公園、東大寺へやって来た。

 とても広い石畳の先、教科書では小学校の時からみてきたあの有名な大仏を目にして、圧倒されてしまう。


「すっごい……」


「ええ」


 てれすも感嘆の息を吐くことしかできないみたいだった。

 ガイドさんに連れ垂れて大仏殿を回っていると、ガイドさんが一本の柱の前でふと足を止めた。

 見ると、柱の下のほうに子供なら通れそうなくらい狭い穴が空いている。


「この柱をくぐり抜けると無病息災とか、願いが叶うとか言われています」


 説明を始めたガイドさんに、犬飼さんが尋ねる。


「あの、あたしたちもくぐってみていいですか?」


「もちろん。女の子なら余裕で通れると思います」


「やった! 行こう、ねこっち!」


「え、いや、わたしは」


「いいからいいから」


 犬飼さんは猫川さんの手を引いて、強引に連れていく。

 というか、結局わたしたちの班は全員がやることになった。


 小柄な犬飼さんが楽々クリアして、猫川さんも無事通り抜ける。

 次はわたしの番だ。


「これ、行けるのかなぁ」


 ガイドのお姉さんを疑うわけじゃないけど、ちょっと心配になった。細いてれすなら、簡単に通り抜けられそうだけど、いたって普通の女の子であるわたしも平気なのだろうか。

 不安に思っていると、背後から声をかけられる。


「ありす、大丈夫よ」


「そうかな」


「ええ。ありす、細いもの。絶対大丈夫」


 お世辞だとはわかっているけど、てれすに言われるとなんだかできそうな気がしてきた。

手から穴に入れて、なんとか身体を通す。

 と、その途中。通ったら願いが叶うとガイドさんが言っていたことを思い出した。


 お願いか。

 うーん、一番はやっぱり、これからもてれすと一緒に、だろうか。

 まだ修学旅行がはじまったばかりで言うのもなんだけど、もう2年生は半分ほどしかない。3年制になるとクラス替えがあるので、てれすと同じとは限らないのだ。


 そんなことを考えながら、狭かったけど、なんとか向こうにたどり着いた。

 わたしがくぐり抜けると、続けててれすが躊躇なくチャンレンジする。そして、さっと通って見せた。やっぱりてれすはスタイル抜群だから、引っかかることもないらしい。

 ……ちょっと羨ましい。


 そんな感じで東大寺を観光したわたしたちは、可愛い鹿たちに見送られながら、一日目のホテルがある大阪へと向かったのだった。


 そのバスの中はもちろん、先ほどのことで盛り上がる。


「てれす、大仏すごかったね」


「ええ。やはり、写真で見るのとは迫力が違ったわ」


「だよね~。柱もなんとかくぐれたし」


 これで病気にもならないらしい。

 お願いも叶ってくれるなら、とても嬉しいことだ。


「そういえば、あの柱の穴の大きさは、大仏の鼻の穴と同じ大きさらしいわよ」


「へぇ! そうなんだ。どうして?」


「さ、さぁ。それはわからないけど……」


 肩をすくめて苦笑するてれすに、わたしが跡で調べてみようかなと思いながらバスに揺られるのだった。


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