182話 新幹線の中で 前編
いよいよ修学旅行が始まって、学校を出発したわたしたちはこの街で一番大きな駅にやって来た。ここで新幹線に乗って、関西へ向かう。およそ三時間の電車旅だ。
初めて乗る新幹線にわくわくしながら、改札を通ってホームへ移動する。そして新幹線が来るのを待つこと数分。先生からの諸注意も終わったタイミングで白色に青色のラインが入った、よくテレビで見ている新幹線がやって来た。
わたしだけでなく、周りから「おぉ!」という歓声が上がる。
「それじゃあ、前の人に続いて乗ってください。席は決めた通りのところに座るようにね」
と先導する先生に続いて、新幹線に乗り込む。
乗っただけだと、いつも乗っている電車とあまり変わったことはなかったけど、扉の先を見て、目を見開く。
広くて綺麗で席がたくさん。なんとなく、高級感というか、背筋が伸びる様な感じだった。普段の電車とは違うとは思っていたけど、ここまでとは。
「すっごーい」
「そうね……って、ありす、進んでもらえる?」
「あ、ごめん」
立ち尽くしていては迷惑になるので、てれすに謝ってすぐに前へ進んでいく。切符に書かれている番号と、しおりに書かれている番号が一致する場所を探して、順番に腰を下ろしていく。
うちの班は6人で、新幹線の座席の3人一列の二つを使用する。前の左から高井さん、わたし、てれす。後ろの列が左から赤川さん、犬飼さん、猫川さん。こういう並びだ。
先生たちが全員座ったかを確認して、新幹線が動き出す。一気に加速していって、関西へ出発した。窓から外を眺めると、ものすごいスピード。なのに全然揺れていなくて感心する。
「ありす」
「どうしたの?」
「あの、お菓子とか食べる?」
「いいの? もらう~」
「ええ。はい」
てれすが差し出してきたのは、みんな大好きなチョコレート菓子のポリッツ。
このお菓子を見ると、てれすが授業中に食べていて、先生に怒られたことを思い出してしまうけど、味は美味しいし、サクサクというかポキポキとした食感がわたし大好きだった。
てれすからもらうばかりでは申し訳ないので、わたしもリュックからお菓子を取り出す。わたしが持ってきたのはクッキーだった。
「はい、てれす。お返し」
「ありがとう」
てれすに渡して、わたしは他のみんなにも配ろうと周りを見る。
左を見ると高井さんが窓際の壁にもたれかかるようにして寝ていた。朝話した時は、ちゃんと寝たと言っていたけど、その後ろで、赤川さんがアイマスクを付けて眠っているから、つられて眠ったのかもしれない。
眠っている二人を起こすわけにもいかず、後ろを向いて犬飼さんと猫川さんにクッキーを渡す。すると、二人もお菓子を持っていたようで、4人でお菓子パーティーが始まった。
それからしばらく、お菓子を食べながら4人で新幹線の感想なんかを言い合っていると、ふいに犬飼さんが手をパチンと叩いた。何かを思い出したのだろうか。
「あ、そうそう」
「……どうしたの、犬飼ちゃん?」
「おしゃべりも楽しんだけどさ、ちょっとゲームでもしない?」
「ゲーム?」
犬飼さんの隣にいる猫川さんだけでなく、わたしとてれすも首をかしげる。
ゲーム機の類のものは持って来ちゃいけないことになっているし、そもそもわたしはゲーム機を持っていない。
たぶん、てれすもそういうったものには興味なさそうなので、どういったゲームをやるつもりなんだろう。
犬飼さんがわたしたちに説明を始める。
「ゲームって言っても、ピコピコやるやつじゃなくて」
「あ、もしかして、しりとりとか、なぞなぞみたいな感じ?」
わたしの言葉に、犬飼さんが笑顔でうなずく。
「そうそう。この前テレビで見て、いつかやりたいなって思ってたの。修学旅行の班がちょうどくらいなんだよね」
「そうなんだ」
ちらと隣を見ると、高井さんと赤川さんが爆睡しているので、この4人で行うことになるだろう。
どんなゲームなのか尋ねようとしたら、わたしよりも先にてれすが聞いてくれた。
「それで、どういうゲームなのかしら」
「えっと、NGワードゲームってやつ」
「NGワードゲーム?」
「それぞれ紙に何か言葉を書いて、右隣りの人に渡すの。受け取った人は見えないよう、おでこにくっつけてゲームスタート。その言葉を言っちゃった人が負けってゲームだよ!」
犬飼さんの説明を受けて、てれすがあごに手を添えて答える。
「他の人の言葉は見えているのよね?」
「うん。そうだよ」
なるほど。
やってみないとなんとも言えないけど、なんとなく理解できた気がする。
つまり、自分のNGワードはわからない。それが何かを推測して、言わないように気を付けながら、他の人にそれぞれのNGワードを口にさせるように話をする、ということか。
けっこうおもしろそうだ。
「どうかな?」
「わたしはいいよ、やってみたい」
「ええ、わたしも」
「……わたしも、やりたい」
「やった! それじゃあ、始めよう!」
わたしが持っていたメモ帳とペンを使って、それぞれ紙に言葉を書いて、NGワードゲームが始まった。




