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ありすとてれす  作者: 春乃
181/259

181話 修学旅行へ

「んん……」


 アラームの音で目が覚めた。スマホを手に取ってアラームを解除して、時間を確認する。いつも学校に行く時間よりも少し早い時間帯。当たり前だけど、昨日の夜に設定した時間ピッタリだった。


 伸びをしてあくびを零す。

 徐々に意識が覚醒して来ると、今日が普通の授業ではなく、修学旅行であるということを思い出した。


 とはいっても、やることはいつもと変わらない。

 ご飯を食べたり着替えたりして、いつもより重たい荷物を持つ。持つと言っても、キャリーバッグなのでゴロゴロできる。家の中では傷がつくから、ゴロゴロするのはやめろと言われたので、できないけど。


 もう一度、絶対に必要なものを忘れていないかを確認して、わたしは出発することにした。まずは学校に集合。そしてバスに乗り込んで新幹線のある駅へ行き、いよいよ関西へ向かう。


「いってきます」


「いってらっしゃい。楽しんでね」


「うん!」


 お母さんに手を振って、家を出る。

 キャリーバッグも転がした。ゴロゴロと音を立てている。まるで映画の登場人物になったかのような気分を味わいながら、わたしが電車で学校へ行くのだった。


 学校へ着くと、すでに大勢の生徒が集まっていた。早めに出たつもりだったんだけど、どうやらみんな、修学旅行が楽しみらしい。

 自分の班を探して、そこに合流する。高井さんと赤川さんがおしゃべりしていた。


「高井さん、赤川さん」


「あ、最上さん」


 2人がこちらに振り向いて、お互い「おはよう」とあいさつする。

 どうやら、てれすも犬飼さんも猫川さんもまだ来ていない様だった。


「いやー最上さん、ついに修学旅行だね」


「うん、すごく楽しみ」


「わたしねぇ、楽しみすぎてあんまり寝れてないんだよねぇ、あはは」


 と大きなあくびを零す赤川さんに、高井さんがジト目を送る。


「昨日、早く寝ろって言ったのに」


「そのつもりだったよ? でも、ベッドの中で考えちゃって、目がさえたの。だから、明日の移動時間に寝ればいいやーって」


「開き直ったの?」


「うん、開き直った」


「まったく……」


 言葉通り、本当に赤川さんは昨日の夜あまり眠れていないらしい。すこしぼんやりとしている赤川さんと、いつもどおりの高井さんとお話していると、やがて、


「よっすよっす!」


「……お、おはよう」


 朝から元気な犬飼さんと、その後ろで小さく会釈する猫川さんがやって来た。


「みんなおっは! 今日晴れてよかったよね! あたし、めちゃくちゃ楽しみ!」


「うん、わたしも」


 2人におはようと返して、先ほどまで高井さんたちとしていた話題をふる。

 赤川さんは、限界が近いのか瞼が半分ほど下がってきていた。


「二人は、昨日ちゃんと眠れた?」


「ばっちし! ねこっちは?」


「わたしも」


 たしかに、二人とも普段通りの声色だし、目の下にクマもない。

 遠足前の小学生みたいに、昨晩寝ていなかったのが赤川さんだけだとわかると、高井さんがため息を吐く。

 ちなみに赤川さんは、立ったまま舟を漕ぎ始めていた。


「赤川、今寝ちゃダメ。せめて新幹線に乗ってから」


「もう、無理かも」


「こら」


 それから、今日巡るところやホテルの食事、京都の自由行動などで盛り上がっていると、先生たちが集まってきた。

 少しして、バスもやって来る。運転手さんやバスガイドさんが降りてきて、先生たちとあいさつを交わしていた。


 もうすぐ、点呼が始まるだろう。

 だけど。


「最上さん、高千穂さんは?」


 てれすが来ていないことを不審に思った、高井さんがわたしに問うてくる。


「わかんない」


 首を横に振って、スマホを見る。

 てれすが遅れてくるのはいつものことだけど、今日は修学旅行だ。ただの授業なら多少遅れても問題はないけど(ある)、今回はシャレにならない。

 

 てれすは、みんなで仲良くわいわいするのが苦手だけど、まさか、急に来ないとか、ないよね……?


 心配になってMINEで今どこにいるのか聞こうとした、そのとき。


「あ、最上さん。高千穂さん来た!」


「え!」


 高井さんが指を差した方向を見ると、てれすが息絶え絶えになりながら、キャリーバッグを引っ張ってこっちに走って来ていた。

 わたしたちが手を振ると、すぐに気づいてこちらに向かって来る。


「てれす!」


「はぁ、はぁ、ごめんなさい」


「いいよいいよ、まず落ち着いて?」


「え、ええ……」


 よほどの距離を走ってきたのか、てれすは両手を膝に乗せて、息を整える。

 体育の授業でも、こんなに一生懸命走って疲れているてれすを見たことはなかった。


「時間を間違えてて……」


「そうだったの?」


「ええ。いつも通りかと思って、朝に準備をしていたのだけど、念のためしおりを見たら、いつもより早くに集合だったから、慌てて……」


「ごめん、わたしが連絡したらよかったね」


「いえ、ありすは悪くないわ。それに、間に合ったのだから、問題ないわ」


「う、うん。そうだ、タオル使う?」


 てれすの額に汗が浮かんでいたので、リュックからタオルを取り出そうとしたんだけど、てれすが「いいえ」と断った。


「嬉しいけれど、ありすのタオルが汚れてしまうわ」


「気にしないよ? それより、てれすが風邪ひいちゃうかも」


「そ、そう?」


「うん。使ってほしいな」


「それなら……」


「はい」


「あ、ありがとう……」


 てれすは、かいている汗を拭いていく。

 こうしていると、なんだか雨の日にてれすがびしょびしょで学校に来たときのことを思い出す。やっぱり、てれすが犬っぽいのかもしれない。


「でも、来てくれてよかった」


「へ?」


「もしかしたら、来てくれないかもなって」


「行くわよ」


「だって、てれす、こういうのあんまり好きじゃないでしょ?」


「それは、そうだけど……」


 でも、と言うてれすのほっぺたは、ほんのり朱に染まっていた。本人も自覚があったのか、わたしのタオルで顔の下半分ほどを隠しながら、言葉を続ける。


「ありすと一緒に、行きたかったから」


「てれす……」


「絶対、行きたかった」


「うん、わたしも」


 二人で笑みを浮かべていると、


「最上さん、高千穂さん! 点呼するって!」

 

 いつも間にやら移動していた犬飼さんに呼ばれた。周りを見ると、ぞろぞろと他の生徒たちも、先生たちのほうへ移動を始めている。


「わかった! すぐ行く!」


 返事をして、わたしはてれすの手をとる。


「行こ?」


「ええ」


 こうして無事にてれすも来て、わたしたちの修学旅行が始まったのだった。


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