180話 修学旅行前夜
9月末日。
いよいよ明日から、修学旅行が始まる。
夏休みが終わるのもあっという間だったけど、2学期が始まってからもすごく早かった。
班を決めたり、どこに行こうかみんなで悩むのもすごく楽しかったから、明日からの旅行はもっと楽しくなると思うと変に意識してしまう。関西に初めて行くこと、初めて新幹線に乗ることもあって、すごくわくわくしていた。
晩ご飯を食べてお風呂に入ったら、荷物をもう一度確認して、今日は明日からに備えて早めに寝よう。せっかくの修学旅行なので、体調不良になるのだけは避けたい。自分も嫌だし、他のみんなにも迷惑をかけてしまう。
お母さんも意識しているのだろう。ご飯を食べながら、明日からのことについて、口を開いた。
「修学旅行、明日からね」
「うん」
「少しの間寂しくなるわ」
「あ、たしかに。ごめんね」
言われて気が付いたけど、お母さんはいつもわたしとご飯を食べている。お父さんが早く帰ってこられないからなので、明日からお母さんは一人でご飯を食べることになってしまうのだ。
なんだか、申し訳ない。
わたしのしんみりとした雰囲気を感じ取ったのか、お母さんが努めて明るく振舞う。
「冗談よ。気にしないで楽しんできなさい」
「うん。お土産、買ってくるからね」
「それもあんまり気にしなくていいから。あなたが楽しんで帰ってくるのが一番よ」
「うん、ありがと」
ご飯を食べてから、お風呂に入る。
ホテルのお風呂はどんな感じなのかなぁ、なんてことを考えながらお風呂から出た。
髪を乾かして自分の部屋へ行こうとしたら、リビングでテレビを見ていたお母さんに声をかけられる。
「荷物の確認が済んだら、今日は早く寝なさいよ」
「わかってるって。小学生じゃないんだから」
「それもそうね」
苦笑するお母さんとわかれて、二階へ上がる。
買ってもらった白色の可愛いデザインをしたキャリーバッグの中身を一度すべて出して、中身を確認する。
「えっと、着替えとパジャマ。ハンカチとかティッシュもある」
綺麗にたたみ直して、順番に詰め直していく。日帰りとか一泊だったらもっと少ないんだろうけど、やっぱり衣類が場所をとりそうだ。
「タオル、歯ブラシ、洗面用具……」
歩き回るときは、紺色のリュックサックで移動をするつもりなので、ここに入れるのはホテルで必要なものになる。
他にキャリーバッグに必要なものを修学旅行のしおりや、スマホで「修学旅行に必須アイテム!」というホームページを見ながら、準備を進めていく。
スマホをスクロールしていると、重大な忘れ物に気が付いた。
「あ! スマホの充電器忘れてた!」
危ない危ない。
たぶん、忘れても誰かが貸してくれるとは思うけど、スマホの充電がなくなったら結構ヤバい。思い出せてよかった、と安堵の息を吐く。
キャリーバッグに入れるものはたぶん大丈夫なので、続いてリュックに入れて持ち運ぶものの確認に移ることにした。
修学旅行のしおりを見ながら、リュックの中に入れていく。
「生徒手帳、ハンカチとティッシュもいるよね。あとは筆記用具も」
ハンカチやティッシュはすぐに取り出せるように、一番容量が大きなところではなく、再度の小さなところに入れる。
「お財布はすごい大事。酔い止めも、一応いるよね」
基本的にわたしが乗り物酔いしないんだけど、もしかしたら乗り物が苦手な人がいるかもしれない。修学旅行という少し特別な環境なので、本来酔わない人が酔っちゃう可能性もある。
「折りたたみ傘、いるかなぁ」
天気予報を見たときは、わたしたちが関西にいる間はずっと晴れと示されていた。
いらないかもしれない、と一瞬思ったけど、やっぱり必要だと判断してリュックに詰め込む。
もしものことがあるかもしれない。それに、前にてれすが雨に濡れて風邪をひいてしまったことがあったし、持っていこう。
それから準備を丁寧に進めていって、最後にしおりを入れて、準備完了となる。
「よし、これでおっけー」
のはず。
もしも忘れているものがあったら、みんなに借りるとかして乗り切ることにする。
「てれす、大丈夫かな」
連絡してみようか、とスマホを手に取る。
MINEを起動しようとしたけど、やっぱりやめた。
「もう寝てるかもだよね」
それで起こしてしまうのは、申し訳ない。
楽しい修学旅行だから、寝不足はよくない。
……わたしも寝よう。
心配や不安はあるけれど、きっと大丈夫。
わたしは忘れ物ないと思うし、何かあってもみんなでフォローすれば問題ないのだ。
悪いときのことを考えるより良いことを考えようと、明日からの楽しい修学旅行に想いを馳せる。
明日はまず学校に集合して、バスで新幹線のある駅へ行く。そして、いよいよ関西へ。
スマホのアラームをかけて、わたしはベッドに入るのだった。




