18話 本番、そして
それからまずまずの練習を行った……つもりだ。
そしていよいよ、ついに本番、球技大会当日がやってきた。
……わけだけど。
「ゲームセット! 勝者最上、高千穂ペア!」
審判が声高らかに試合終了を宣言する。
結論から言おう。
わたしたちはこれで、なんと決勝戦まで勝ち上がった。
主に、いや、ほぼてれすのおかげである。
これまでに3、4回ほど試合を行ったけど、わたしの仕事はサーブを入れること。たまに来るボールを相手コートに返すこと。あとは突っ立っていることだ。
「なんだかなぁ……」
複雑な思いを胸に、わたしはつぶやく。
たしかに勝ちたい、優勝したいとは言った。でもこれは何かが違う。
……もっとがんばらなきゃ。
決勝戦は、お昼休憩をはさんだ午後からだそうなので、わたしはてれすを誘って昼食をとることにした。
「てれす、お昼食べよ?」
ベンチに座って汗を拭いながらアクエットを飲んでいるてれすに声をかける。
「ええ、そうしましょう」
てれすが承諾してくれたので、わたしの提案で近くの木陰に移動する。
春とはいえお昼のこの時間、さらにはスポーツをしていたので若干暑い。が、ときおり吹く風が爽やかで心地がよかった。
テニスって、爽やかなイメージがあるよね。
わたしはお弁当のフタをパカッとオープンする。
今日はこういうことを見越してお手軽に食べることができるサンドイッチにしてみた。
……あれ? サンドイッチ? サンドウィッチ?
どっちでもいいか。
外で食べるお弁当は、普段とは違い、どことなくピクニックの感じがあって、ただのお昼ご飯も楽しくなる。
午前中、わたしの何倍も動いて活躍していたてれすのお弁当は、どんなものだろうと、覗いてみた。
覗いてみて、思わずえっ? っと声が出る。
てれすの手にはガッツが出るギアが。
ガッツが出るギアとは、運動のときとかに飲む栄養がある的なゼリー状のもので、ちゅるちゅると飲むやつである。
「まさかとは思うけど、てれす? お昼それ?」
「そうだけど……。どうしたの?」
当たり前でしょ? と言わんばかりの顔をするてれす。
いやいや、もっと食べなきゃ。あれだけ運動したんだから。
「ダメだよてれす。ちゃんと食べないと」
言ってわたしはサンドイッチを一つ差し出す。
「いや、別に大丈夫よ?」
わたしの手にあるサンドイッチを見ながらてれすは苦笑して断る。
てれすが大丈夫でも、わたしは大丈夫でない。
テニスでは何もできなかったので、せめてこのくらいはさせてほしい。
「受け取って、てれす。わたしテニスじゃ何もできなかったので、から、お礼みたいなものだよ」
そう言ってわたしが微笑むと、やっとこさてれすも観念してくれたようで、しぶしぶサンドイッチを受け取る。
「ありがとう。でも、何もできていないことはないわ。わたしも助かっていることだってあるもの」
「そう、かな……。なら、嬉しいけど」
もぐもぐと、お互い咀嚼。
やっぱりてれすは優しい。
「でもでも、てれすがMVPだよ、MVP。間違いない」
てれすの言葉に少し安心する。
足を引っ張っていないということがわかっただけでもよかった。
最低限だね。
「MVPって……。まだ次の試合があるのだから、わからないわ」
あ、たしかに……。
次の決勝戦で、わたしたちが負けちゃったら、相手の子がMVPか。
でも、どうなろうと、わたしの中ではてれすがMVPである。
……ってことは、
「MVA、だね」
「A?」
てれすが不思議そうにわたしを見つめる。
Aといったら、わたしを誰だと思っているのさ。
「ARISU、のAだよ。わたしの中ではてれすが一番だから」
「あ、そういう。ありがとう……」
てれすの頬が少し染まる。
そしてもごもごとつぶやく。
「一番……。わたしが、一番……」
「え? なんて?」
声が小さすぎて全然聞き取れなかった。
一体何を言っていたのだろう。
すると、てれすは微笑んで言う。
「サンドイッチ、おいしかったわ。次もがんばりましょう?」
「うん、勝とうね!」
てれすの言葉に力強くうなずくわたし。
残りのお弁当もおしゃべりしつつきれいに完食し、いよいよ決勝戦が始まります。
結城天です。こんにちは。
まずは、読んでいただきありがとうございます。
おひさしぶりです。
ほんとに遅くなり、申し訳ありません。
がんばります!
これからも、ありすとてれす、お願いします!
では、次のお話で。




