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ありすとてれす  作者: 春乃
178/259

178話 てれすの行きたい場所

 借りていた旅行雑誌やらガイドブックやらを読むこと数時間。最後の一冊の最後のページをめくって、本を閉じてから、わたしは両手の指を組んで伸びをする。


「ん~」


 図書館で周りに人がいることも考えて、いつもよりは小さめに伸びる。隣では、てれすも達成感のこもった息を吐き出していた。

 壁に掛けてある時計を見ると、午後6時の少し前。3時間くらいが、あっという間に経過していた。

 

 ……てれすと一緒だと、いつも時間が経つのが早いなぁと思いつつ、隣のてれすに小声で話しかける。


「そろそろ帰ろうか」


「ええ、そうね」


 棚から持ってきていた本や雑誌をちゃんと元の棚に返却して、わたしとてれすは図書館を出た。駅へ向かって歩いている途中、今日の成果を話す。


「うーん、やっぱりどこも魅力的で困っちゃうね」


「そうね」


 旅行雑誌には、誰でも知っているような有名な観光スポットはもちろんだけど、あまり知られていない場所についての記事もあった。せっかくだし、みんながわかるような場所を中心に回るのがベターなのかなぁ、なんて思っていたけど記事の書き方が魅力的だったから、そっちにもちょっと関心が湧いてしまう。


 そして、ちょっと意外で重大な事実も発見した。ある意味では今日、図書館で調べてよかった部分だと思う。

テレビで見ているときにはあまり気にしていなかったけど、場所と場所とが案外離れているのだ。もちろん、近い所もある。だけど、色々と回ろうと思うと、自由行動の時間では回り切れるか怪しい。


「とりあえず、他の班の子たちとも相談だね」


 苦笑混じりに言うと、てれすもこくんとうなずく。


 高井さんや犬飼さんたちも、それぞれに行きたい場所の目星はついていると思う。これは月曜日に相談して、早めに決めていったほうがいいかもしれない。

 と、ここで一つ思い出して、わたしはスマホを取り出した。


「あ、そうだ。修学旅行の班のグループ作るの忘れてる」


「グループ?」


 聞きなじみのない言葉だったのだろう。てれすは可愛らしく首をかしげた。

 そういえば、てれすはMINEとかってあんまりやらないと言っていたから、グループというものを知らないのかもしれない。


「うん。MINEって基本的には一人対一人での会話だけど、誰かがグループを作ったら、招待された人たちだけで会話できるの」


「へぇ、それは便利ね」


「でしょでしょ。だから、それで話し合いをしようかなって」


「ええ、そうできるのなら、すごく良いと思うわ」


 てれすも賛成してくれたので、信号待ちのタイミングを見計らって修学旅行のグループを作成する。


「……よしできた。てれす、招待届いてる?」


 わたしが尋ねると、てれすはスマホの画面を見つめながらうなずいた。


「ええ。えっと、参加でいいのかしら」


「うん」


 すると、グループに『高千穂てれすが参加しました』という文字が現れる。高井さんと赤川さん、犬飼さんと猫川さんはそれぞれ何かをしているのか、すぐに参加する気配はなかった。スマホをカバンに片付けて、てれすに質問する。


「グループはこれでいいとして、てれす、どこか行きたいところとかあった?」


「そうね……」


 てれすはあごに手を添えて、少しの間悩んだ様子を見せてから口を開く。


「ベタだけれど、清水寺かしら」


「あぁ! いいよね。わたしも清水寺は絶対行きたいなって思ってた」


 おそらくだけど、清水寺は満場一致で行くことになるんじゃないだろうか。わたしの反応に、てれすは少し口角を緩めて話す。


「清水の舞台って、どのようなものか見てみたいし、音羽の滝もぜひ行きたいわ」


「たしかに。途中の道にお店がいっぱいあるみたいだから、行くときにちらっと見て、帰りにお土産もたくさん買えそうだよね」


 京都と言えば、抹茶とか八つ橋とか。あとは……新選組? とにかく、それらを含めて、想像するだけでもわくわくした。


「ええ。……あとは、その、石……とか」


「石?」


 石ってなんだろう、と思ったけど、すぐに清水寺について雑誌に書いてあったことを思い出した。

 たしか、恋占いの石、みたいな名前だったはず。10メートルほどの距離がある石から石の間を、目を閉じてたどり着けたら恋が叶う……だったかな?


「って、え?」


 わたしがいきなりじっとてれすのことを見つめたから、てれすは戸惑ったような反応を見せた。


「ど、どうしたの?」


「いや、だってそれって」


 恋占いの石だよ?

 石から石にたどり着けたら、恋が叶うんだよ?

 ということは……。


「えっと、てれすってさ、好きな人とか……その、いるの?」


 恐る恐る尋ねると、てれすは顔を赤く染めて、ぶんぶんと首を横に振った。首がとれてしまうんじゃないかってほど、強く否定する。


「い、いえ、そういうことじゃなくて。単におもしろいなって思っただけよ」


「そっかぁ」


 なぜか、ちょっと安心した。

 でも、てれすの言うとおりおもしろいし、素敵かもしれないとも思う。


 そんな感じで京都について話していると、駅について電車に乗り込んだ。わたしが降りる駅が近づいてきたので、改めててれすにお礼を言う。


「てれす、今日はありがとね。急なさそいだったのに」


「いえ、そんなことないわ。さそってくれて嬉しかった」


「そう言ってくれたら、わたしも嬉しい」


 二人で見つめ合って、小さく笑い合う。

 やがてわたしが降りる駅に到着したので、胸の前で手を振って、


「それじゃ、てれす。また学校で」


「ええ」


 てれすと別れた。

 電車が見えなくなるまで見送って、ホームをあとにする。まもなく訪れる修学旅行に胸を弾ませながら、わたしは帰路に就くのだった。

 


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