177話 図書館へ
次の日。
お昼ご飯を食べてからわたしは、14時に駅に着けるくらいに時間を調節してからお家を出た。
ちょっと急ぎ足で歩を進めていき、14時になる少し前に駅に到着する。
「さてと」
これからわたしのお家へ行くのであれば、わたしは改札口からてれすが出てくるのを待っていればいいわけだけど、今日は違う。わたしも電車に乗って図書館へ行くのだ。だから、切符を買ってホームへ行くことにした。
てれすがまだ来ていなくても、電車で来るてれすをホームで待って、それから合流すればいいからだ。
改札をくぐって、階段を上る。ホームにやって来て、わたしは端っこに移動してスマホの電源を入れた。MINEにメッセージが着ていることに気づく。
『ホームで待っているわ』
「え! てれす、もう来てたんだ」
顔を上げて周りを見渡すけど、ここからではてれすのことは見えない。けれど、もう来ているみたいなので、慌てててれすの姿を探してホームを歩く。
すると、ベンチの横に立っているてれすを発見した。てれすはスマホをじっと見つめていて、わたしには全く気が付いていないようだった。
「……ふむ」
少し考えて、わたしはスマホに文字を打ち込む。
『てれす、左見て』
すぐにてれすがこちらに顔を向けて、目が合った。てれすの顔が少し嬉しそうに柔らかく笑み、わたしは駆け足で移動する。
「てれす!」
「ありす」
てれすのスマホを持っていないほうの手をとって、にぎにぎと握りながら待たせてしまったことを謝る。
「ごめんね、遅れちゃった」
「いえ、そうでもないわ。時間ピッタリよ」
「でも、てれすを待たせちゃったし」
「気にしないで? わたしもさっき降りたところだから」
「ほんと?」
「ええ」
てれすがそう言うのであれば、とわたしは「ごめんね」ともう一度謝って手を離した。そのちょうどのタイミングで、電車がやって来る。
「行きましょう、ありす」
「うん」
二人で電車に乗り込む。土曜日のお昼ということで、車内は混雑していた。一人だけ座ることができるスペースがあったので、てれすに座るように勧める。
「てれす、座りなよ」
「いえ、ありすこそ」
「ううん、てれすが座って」
さっき待たせてしまったし、ここでわたしが座るわけにはいかない。
「ほら、わたし班長だし、てれすが座ってよ」
「そ、そう?」
「うん」
「それなら、お言葉に甘えて……」
ようやくてれすが渋々と言った感じで席に腰を下ろす。わたしはその前に立って、揺られること数分。すぐに図書館の最寄り駅に到着した。
「さ、行こうてれす」
「ええ」
ホーム、改札をくぐって駅を出る。
図書館に行くのはすごく久しぶりだったけど、ここの市立図書館はこの辺りではかなり大きいほうの図書館で、すぐに見つけることができた。
「あ、あったよ、てれす」
「あれが図書館なのね」
「うん。てれす、初めて?」
「ええ、来たことないわ」
「そうなんだ」
「ありすは?」
「わたしはあるよ。小学生のときとか、よく来てたかも」
自動ドアをくぐって中に入る。
この図書館は全部で4階まであった……ような気がする。真正面はカウンターで、本を借りたり返したりするところ。他にもいろいろとお姉さんが対応してくれる。右に行けばCDやDVDなんかも借りることができる。
なんだか懐かしいような、変な感じだった。本がどんどん入ってくるだろうから当たり前なんだろうけど、前に来たときよりも変わっているように見える。
「……とても広いのね」
「うん、ここならきっと京都に関する本がいっぱいあるよね」
「間違いないわね」
さっそく旅行ガイドや旅行雑誌を探すため、静かに音に気を付けながらわたしたちは左へ曲がる。ここは新聞や雑誌などが置かれている場所だ。
そこでてれすと手分けをして本や雑誌を見て行って、再び合流する。
「てれす、あった?」
「ええ。それなりに」
答えるてれすの視線はわたしの手元に向けられている。昨日テレビでやっていたみたいに今は修学旅行シーズンだから、もしかすると新刊コーナーにもあるかもしれないと、わたしは雑誌を数冊抱えていた。
「ありすの方も、いっぱいあったみたいね」
「うん。あっちで一緒に見よ?」
「ええ、そうね」
土曜日ということもあって、館内はそこそこ人が入っていたけど、使われていないテーブルがあったので、そこに隣同士並んで腰を下ろす。
机上に雑誌や本を置いて、まず一冊選んでお互いが見える真ん中に広げた。
ちょっと見にくかったので、イスをてれすのほうに寄せる。そして本を見るために身体を前かがみにさせると、かなりてれすとの距離が近かった。ふわりとてれすの艶やかな黒髪から、シャンプーに甘い香りが漂ってくる。
「……」
「ありす?」
「へ?」
「どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもないよ」
慌てて首を振って、わたしは誤魔化す。焦りながらもなんとかページを開いて、早く読もうと促した。
「さ、読もう?」
「ええ。ちょっと、楽しみだわ」
「わたしも」
それから、わたしたちはゆっくりと京都についての雑誌を読んでいくのだった。




