172話 4人のお昼ご飯
昨日は始業式だったので、2学期初めてとなる本格的な授業を午前中受けて、お昼休みになった。今日の朝に、高井さんと赤川さんと一緒に食べる約束をしたので、初めて4人でご飯を食べることになる。
「最上さん」
授業で使った教科書やノートを片付けていると、一足先に片付け終えていた高井さんが、自分の机をわたしのほうへ向けようとしていた。
「最上さん、机くっつけるね」
「うん。わたしも」
教科書などを机上でトントンと整えて、カバンの中にしまう。それから高井さんの机と正面同士をぴったりくっつける。
と、後ろから声がかけられた。
「高井、最上さん」
振り向くと、手に財布を持った赤川さんがいた。その隣にはてれすがいて、わたしと目が合うとタタッとこちらへやって来る。
「ありす」
「てれす、赤川さんさそってくれたんだね」
4人で食べるのを決めたとき、その場に赤川さんはいなかった。だから高井さんが伝えようとしたけど、てれすが席が隣だからと、その役割を引き受けたのだ。
正直、てれすが自分から他の人をさそうところなんて見たことがなかったから心配していたんだけど、無事できたらしい。ほっとした、なんて思うのはおかしいかもしれない。まるで自分がてれすのお母さんかお姉ちゃんにでもなったみたいだ。
「別にそのくらい、何でもないわ」
と言うてれすは表情は、ほんの少しだけ自慢げな感じだった。
「ありがとね、てれす」
「ええ」
素直に感謝を伝えると、てれすは頬をわずかに紅潮させた。
てれすと席が離れてしまって、休み時間は一緒にいることができても、授業中は話すことなんてできない。だから、こういう風にてれすと普通の会話をしているだけでもすごく心が弾んでしまう。
わたし、自分で思っている以上にてれすのことが好きなのかも、なんて思っていると、ふと壁に掛けられている時計が目に映った。
「てれす、購買行かなくて平気?」
「あ、そうね。行かないと」
2人で食べていた時は、チャイムがなって礼をしたらすぐにてれすは教室を出て購買にパンを買いに行っていた。学校のパンは美味しいと評判だから、こうやって短い時間でも人気のパンはなくなってしまうかもしれない。
わたしの指摘にうなずいたてれすを見て、赤川さんとお話をしていた高井さんが質問する。
「高千穂さんも購買?」
「ええ」
「わたしと赤川もなの。急いで行こ」
と言いつつも、高井さんが申し訳なさそうにわたしの顔を見る。わたし一人になってしまうことに、ちょっと罪悪感をかんじてしまっているのかもしれない。
「あの、最上さん」
「いいよいいよ。早く行ってきて? 待ってるから」
「うん。ごめんね」
そう言って、足早に教室を出ていった3人の背中をわたしは見送る。一人残されたわたしは、自分の後ろの2つの席をくっつけて、4人で食べられるように準備することにした。それもすぐに終わり、カバンからお弁当箱を出して3人が帰ってくるのを待つ。
少しして、3人は無事パンの入った袋を手に戻ってきた。3人で何かおしゃべりをしていて、少し羨ましく思ってしまう。
「おかえり」
「ありす、遅くなってしまって……」
「ううん、気にしないで?」
謝ろうとするてれすを先に制す。
3人はそれぞれ、高井さんがわたしの正面、その隣に赤川さん、わたしの隣にてれすが移動して腰を下ろした。椅子に座って一息ついた高井さんが、変形させたテーブルたちを見て言う。
「あ、机やってくれたんだ。最上さんありがとう」
「いいよ。それより、食べよ?」
こうして、わたしたち4人はご飯を食べ始める。
学校で集まってお昼ご飯を食べるのは始めただけど、夏休みに同じメンバーでカラオケに行ったし、わたしとてれすの二人の時と同じとは言えないけど、和んだ雰囲気で時間は過ぎていく。
楽しく談笑しながらご飯を食べ進めていると、ふいに赤川さんが、
「あ、そうだ」
と何か思い出したのか声をあげた。
「高井、あれ言っておいたほうが」
「あぁ、そうね」
高井さんは納得したようにうなずく。それから、わたしとてれすに顔を向けて話し始めた。
「あの、最上さん、高千穂さん」
「うん」
「一緒にお昼を食べようってさそっておいてなんだけど、わたしと赤川、部活のミーティングでたまに一緒に食べられない日があるかも」
「え、そうなの?」
「うん。ごめんね」
「ううん、部活なら仕方ないよ」
さすがに部活の会議を無視してまで、一緒に食べようとは言えない。それに、二人には少し申し訳ないけど、その日はてれすと2人きりでご飯を食べることができるということだろう。
2人が気にしないよう、もぐもぐと焼きそばパンを食べているてれすにも同意を求める。
「ね、てれす」
「ええ、気にする必要ないわ」
「てことだから。その日は無理でも、今日みたいな日は一緒に食べようね」
わたしとてれすの反応に、高井さんと赤川さんは顔を見合わせて安堵の息を吐いた。
「ありがとう、最上さん、高千穂さん」
「二人と友達でよかったよぉ」
「さすがにそれは言い過ぎだって。ねぇ?」
「……ええ」
わたしとてれすも顔を見合わせて、小さく笑い合うのだった。




