168話 進路と席替え
2学期の始業式を終えて、わたしたちは教室に戻ってきた。
あとはホームルームを受けて放課になるけど、このホームルームが本番。始業式で体育館へ行く前に、先生が席替えをすると明言したからだ。
ちらと隣を見る。
もしかすると、次はてれすの隣になれないかもしれない。くじを引くときに、てれすの隣を引き当てればいいんだけど、その確率はかなり低い。もしもそうなれば、それはもう運命だろう。
隣にいるてれすも、不安そうな顔をしていた。
「てれす」
「ありす……」
「次も隣同士になれるかな」
「……どうかしらね。なりたいけれど、けっこう難しいと思うわ」
「だよね……」
いっそのこと、席替えをするというのが嘘であってくれと思ってしまう。
けど、そんなことはない。教壇で話をしている彩香ちゃん先生はきっと覚えているし、今話していることが終われば、残った時間で席替えを行うだろう。
席替えの時間が迫って来るなか、先生の話に耳を傾ける。
「――それから。もう2年生の2学期です。2学期は修学旅行や文化祭など、楽しいこともたくさんありますが、みなさん、自分の進路のことを考えていますか?」
……進路かぁ。
今は席替えのことで頭がいっぱいだけど、しっかり考えないといけない。
たぶん、わたしが普通の大学に行くと思う。
まだ確定ってわけじゃないけど、今の段階では特にやりたいことがないし、それを探すという意味でも、もしも見つかったときに有利になるためにも大学に行くという選択をすることになると思う。
ちらと隣のてれすを見る。てれすもわたしのことを見ていたのか、それとも単なる偶然か。てれすと目が合った。
「ありす?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
「そう?」
「うん」
笑顔を作って、顔を前に向ける。
てれすは、将来どうするんだろう。もしかして、やりたいこととか、なりたいものとか見つかってるのかな。
わたしもてれすも、将来どうなるんだろう。
そのうち、こういうことも話したいな。そんなことを考えていると、
「さて。それじゃあ、席替えをしましょうか」
先生が言って、ついにその時がやって来た。
教卓の上にお手製のくじびき(適当な紙に数字を書いて、これまた適当に折ったもの)を置く。
「今日の日直さんから、くじを引いていってください」
今日の日直である、廊下から数えて2列目の一番前に座っている生徒が立ち上がって、くじを引いた。その後、次々にくじが引かれていって、中盤に差し掛かったくらいで、てれすの順番になる。
「行ってくるわ」
「うん」
てれすの背中を見送る。
黒板では、ちょうど先生が各席に番号をふって終わったところだった。
とにかく、位置はどこでもいいから、てれすの隣にさえなれば。黒板とにらめっこをしていると、てれすが紙をもって帰ってきた。
「てれす、何番だった?」
「23番よ」
「23」
黒板に書かれている23番を探す。
その席は一番廊下側の一番後ろだった。今てれすが座っているのと同じ端っこの席なので、隣は一つしかない。その番号は1番だった。
教室を見渡す。けど、誰もてれすのほうを見ていないので、きっとまだ1番は出ていないのだろう。それなら、まだ希望はある。
自分の順番になったので、わたしは立ち上がる。
「行ってくるね」
「ええ」
ドキドキと高鳴っている心臓の音を聞きながら、教卓の前まで移動して、散りばめられたくじを見つめる。ひょっとすると、書いてある数字が透けて見えないかなって期待したけど、一切わからなかった。
わたしに透視能力があるわけでもないので、覚悟を決めてくじを引く。
1番。1番っぽいやつは……。ちょっと悩んだけど、直感で決めて、そのくじに手を伸ばす。
これッ!
その場で中身を見ることはせず、わたしがくじを持って自分の席に戻る。
手の中にある一枚の紙きれが運命を握っていると思うと、ちょっとだけ震えた。大きく息を吐きながら席に座ると、てれすが声をかけてくる。
「ありす」
「うん。開くね。せーの」
紙に書かれていたのは――。




