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ありすとてれす  作者: 春乃
166/259

166話 お祭りの後

 花火はド派手な演出でフィナーレを迎えた。オーソドックスな大きくて丸いものから、滝みたいに流れるもの、ハートや星型なんてものもあった。

 最後に一番大きな円形の花が夜空に咲き誇り、幕を閉じる。辺りには一瞬だけ静寂が戻り、しかしすぐに人のにぎやかな声が聞こえてきた。わたしも例に漏れることなく、未だに心は興奮していた。


 周囲の人たちが動き出したので、わたしたちもそれに続いて、露店が並んでいた場所へと歩き始める。


「てれす。花火すっごくよかったね!」


「ええ。とても」


「最後、いっぱい花火がドーン! って連続して打ち上がるのは感動しちゃった」


「たしか、スターマイン、と言うのだったかしら。すごく綺麗だったわ」


「ね!」


 首肯するてれすのほっぺたも、花火はもう打ち上がっていないのに紅潮していた。

 橋を渡り切って、露店が立ち並ぶ場所へと戻って来る。

 周りを見ると、花火の終わりと共に変える人たちの姿が多く映る。わたしたちも花火の前に露店は巡ったし、十分に楽しんだと言えるだろう。

 時間的にも帰っても構わない頃合いだと思うけど、わたしだけで決めるわけにはいかない。隣を歩いているてれすに意見を求める。


「てれす、まだ何かする?」


「……ええ、そうね」


 辺りを、正確には露店をきょろきょろと見ながら、てれすがつぶやく。

 その表情は、まだ何かしたいことがある、そんな風に見えた。もしかすると、お腹が空いたのかもしれない。


「まだ何かしたいことあるなら、しよ?」


「あぁ、いえ。そうではないの」


 わたしの言葉に首を振って、てれすは続ける。


「その、もう帰るって思うと、なんだか少し寂しくて」


「……それは、わたしも思う。けどさ、これでおしまいってわけじゃないし。また来年も来ようよ、一緒に」


「……! 来年も?」


「うん」


 来年は三年生になるから、夏休みは進路のことで大変な時期かもしれない。でも、一日くらいなら息抜きだって必要だろう。てれすが良いって言ってくれるなら、わたしは来年だけじゃなくて、何回でも一緒に来たいなってと思う。


「てれすが嫌じゃなかったら、だけど」


「嫌じゃない!」


 やや食い気味でてれすが答えたので、わたしは少し驚いて目を大きくする。だけど、前のめりになって即答してくれたことが嬉しくって、つい笑みが零れた。


「ありがと。約束ね」


「ええ。約束」


 小指同士で指切りをする。それから、てれすがほっぺたを朱に染めて、やや目を泳がせながら口を開いた。


「それで、その、ありす……?」


「どうしたの?」


「わたあめ、買ってもいいかしら?」


「え?」


 てっきり、もう帰るものだとばかり思っていたので、思わぬ言葉に聞き返してしまった。


「食べたくって」


 そう言って、てれすは近くにある露店を指差す。わたしが聞き返したからか、その顔は不安の色を滲ませていた。

 ちょっとだけ面を喰らったけど、ダメなわけない。


「うん、いいね。わたしも甘いものが食べたかった」


「本当?」


「うん。あ、でも、まだお腹はいっぱいだから、わけっこしてくれると嬉しいかも」


「ええ。もちろん」


 こうして、わたしとてれすはわたあめを一つ買って、食べながら駅へと向かった。

 それから駅のすぐ目の前まで戻って来て、信号待ちをする。その間に、わたあめはまさに解けるようになくなって、食べ終えた。


「わたあめって、久しぶりに食べたかも。美味しかった~」


「もう一つ買ってもよかったかもしれないわね……」


「いや、そんなにはいらないかなぁ……あはは」


「そう?」


 と、青に変わったので信号を渡って、駅へ入る。

 切符を買って電車に乗り込んで、揺られること少し。わたしが降りる駅が近づいてきた。そのアナウンスが聞こえたので、てれすに言う。


「それじゃ、てれす。今日はすっごく楽しかった。ありがとね」


「ええ。わたしも。さそってくれて、ありがとう」


「えっと、次は学校かな?」


「ええ。たぶん、そうね」


 もう一週間もしないうちに2学期が始まって学校で会えるけど、やっぱり別れ際は寂しい。

 けど、電車や時間が待ってくれるはずもなく、わたしが降りなければならない駅に停車した。扉が開く。


「またね、てれす」


「ええ」


 小さく手を振って、他の人の邪魔にならないようホームに降りる。

 電車が発車して、見えなくなるまで見送ってから、わたしはお家に帰った。


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