166話 お祭りの後
花火はド派手な演出でフィナーレを迎えた。オーソドックスな大きくて丸いものから、滝みたいに流れるもの、ハートや星型なんてものもあった。
最後に一番大きな円形の花が夜空に咲き誇り、幕を閉じる。辺りには一瞬だけ静寂が戻り、しかしすぐに人のにぎやかな声が聞こえてきた。わたしも例に漏れることなく、未だに心は興奮していた。
周囲の人たちが動き出したので、わたしたちもそれに続いて、露店が並んでいた場所へと歩き始める。
「てれす。花火すっごくよかったね!」
「ええ。とても」
「最後、いっぱい花火がドーン! って連続して打ち上がるのは感動しちゃった」
「たしか、スターマイン、と言うのだったかしら。すごく綺麗だったわ」
「ね!」
首肯するてれすのほっぺたも、花火はもう打ち上がっていないのに紅潮していた。
橋を渡り切って、露店が立ち並ぶ場所へと戻って来る。
周りを見ると、花火の終わりと共に変える人たちの姿が多く映る。わたしたちも花火の前に露店は巡ったし、十分に楽しんだと言えるだろう。
時間的にも帰っても構わない頃合いだと思うけど、わたしだけで決めるわけにはいかない。隣を歩いているてれすに意見を求める。
「てれす、まだ何かする?」
「……ええ、そうね」
辺りを、正確には露店をきょろきょろと見ながら、てれすがつぶやく。
その表情は、まだ何かしたいことがある、そんな風に見えた。もしかすると、お腹が空いたのかもしれない。
「まだ何かしたいことあるなら、しよ?」
「あぁ、いえ。そうではないの」
わたしの言葉に首を振って、てれすは続ける。
「その、もう帰るって思うと、なんだか少し寂しくて」
「……それは、わたしも思う。けどさ、これでおしまいってわけじゃないし。また来年も来ようよ、一緒に」
「……! 来年も?」
「うん」
来年は三年生になるから、夏休みは進路のことで大変な時期かもしれない。でも、一日くらいなら息抜きだって必要だろう。てれすが良いって言ってくれるなら、わたしは来年だけじゃなくて、何回でも一緒に来たいなってと思う。
「てれすが嫌じゃなかったら、だけど」
「嫌じゃない!」
やや食い気味でてれすが答えたので、わたしは少し驚いて目を大きくする。だけど、前のめりになって即答してくれたことが嬉しくって、つい笑みが零れた。
「ありがと。約束ね」
「ええ。約束」
小指同士で指切りをする。それから、てれすがほっぺたを朱に染めて、やや目を泳がせながら口を開いた。
「それで、その、ありす……?」
「どうしたの?」
「わたあめ、買ってもいいかしら?」
「え?」
てっきり、もう帰るものだとばかり思っていたので、思わぬ言葉に聞き返してしまった。
「食べたくって」
そう言って、てれすは近くにある露店を指差す。わたしが聞き返したからか、その顔は不安の色を滲ませていた。
ちょっとだけ面を喰らったけど、ダメなわけない。
「うん、いいね。わたしも甘いものが食べたかった」
「本当?」
「うん。あ、でも、まだお腹はいっぱいだから、わけっこしてくれると嬉しいかも」
「ええ。もちろん」
こうして、わたしとてれすはわたあめを一つ買って、食べながら駅へと向かった。
それから駅のすぐ目の前まで戻って来て、信号待ちをする。その間に、わたあめはまさに解けるようになくなって、食べ終えた。
「わたあめって、久しぶりに食べたかも。美味しかった~」
「もう一つ買ってもよかったかもしれないわね……」
「いや、そんなにはいらないかなぁ……あはは」
「そう?」
と、青に変わったので信号を渡って、駅へ入る。
切符を買って電車に乗り込んで、揺られること少し。わたしが降りる駅が近づいてきた。そのアナウンスが聞こえたので、てれすに言う。
「それじゃ、てれす。今日はすっごく楽しかった。ありがとね」
「ええ。わたしも。さそってくれて、ありがとう」
「えっと、次は学校かな?」
「ええ。たぶん、そうね」
もう一週間もしないうちに2学期が始まって学校で会えるけど、やっぱり別れ際は寂しい。
けど、電車や時間が待ってくれるはずもなく、わたしが降りなければならない駅に停車した。扉が開く。
「またね、てれす」
「ええ」
小さく手を振って、他の人の邪魔にならないようホームに降りる。
電車が発車して、見えなくなるまで見送ってから、わたしはお家に帰った。




