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ありすとてれす  作者: 春乃
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163話 てれすと夏祭り 後編

 お腹いっぱいになったわたしは、てれすに得意の射的を見せるべく、射的屋さんを探していた。人ごみの中を少し歩くと、お店を発見した。


「てれす、あそこにしよう」


「ええ」


 てれすの手を引っ張って、露店へ向かう。お店では、小学校低学年くらいの可愛らしい女の子が、お母さんと一緒に射的をしていた。

 順番を待つため、わたしたちはその様子を近くから見守る。


 女の子は台から一生懸命手を伸ばして、距離を少しでも縮めて当たりやすいようにがんばっている。見ていて自然と笑みが零れてしまう。

 狙っているのはクマのぬいぐるみみたいだ。女の子が片目をつぶって、コルク銃の引き金を引く。放たれたコルクは見事クマさんに命中して、女の子は店番のお姉さんからクマさんを笑顔で受け取った。

 一連の様子を見ていたてれすが、感想を漏らす。


「意外と景品取りやすいのかしら」


「そうなのかも」


 こういうのって、屋台によっては難易度が違うけど、ここは優しい所なのかも。それなら、てれすに良いところを見せられそうだ。

 女の子が手を振って離れていくのを見届けてから、わたしはお姉さんに声をかける。明るい金髪のお姉さんは身長がすらっと高く、ぱっちりとした瞳で笑顔が素敵な、お祭りが似合う元気な印象だった。


「あの、一回お願いします!」


「はーい。ありがと」

 

 お金を渡して、お姉さんがコルクを差し出してくる。


「ほんとは一回5発なんだけど、あなたたち可愛いからサービスで7つあげるね」


「え、いいんですか!?」


「いいのいいの。さ、ばーん! と撃っちゃって」


 お姉さんにお礼を言って、わたしはコルクを銃にセットする。

 狙う景品はどれにしよう。

 さっきの女の子がゲットしていたような可愛いぬいぐるみでもいいけど、他には……。


 一通り景品を見て見ると、お菓子とか花火とかもあるみたいだ。せっかくだし、てれすと一緒に何かできるもの、喜んでもらえそうなものにしよう。

 とりあえず、てれすが喜んでくれるであろう、お菓子セットに決めた。

 狙いを定めて、台から身を乗り出す。先ほどの女のことと違って、わたしはもう高校生だから、けっこう距離を縮めることが来出た。


「ありす、がんばって」


「まかせて」


 引き金を引く。

 しかし。


「……あれ?」


 景品にかすることなく、コルクは奥の壁に命中した。

 ……おかしいな。

 昔はもっと簡単に当てれていた気がするんだけど。それに、あの女の子だって。


 首を捻りながら、わたしはどんどん弾を撃っていく。

 だけど。


「そ、そんなぁ……」


 結局、一発も命中させることができずに、全てのコルクを撃ち終えてしまった。

 自分でてれすに得意だと言っていた手前、恥ずかしいしショックだ。肩を落とすわたしをてれすが慰めてくれる。


「あ、ありす。あまり気にしないで? 惜しかったわよ?」


「う、うん。ごめんね」


 てれすにそう言ってもらえると、ちょっとだけ救われる。けどやっぱり、悔しいなぁと思っていると、てれすが拳をぐっと握った。


「仇はわたしがとるわ」


「え、てれす?」


「一回お願いします」


 てれすはやる気に満ち溢れた顔で、お姉さんにお金を渡した。

 そして早速、コルクを銃にセットして狙いを定める。わたしが狙っていたものと同じものだ。


「てれす、がんばれ!」


「ええ。まかせて」


 てれすは、ふっと口元を緩めてわたしに返す。しかし、すぐに景品に鋭い視線を向けた。柔らかな笑みと真剣な眼差しとのギャップに、思わずきゅんとしてしまう。

 わたしがドキドキしながら見守るなか、てれすは躊躇いなく引き金を引いた。その結果。

 

「いや~、お姉さん上手だね!」


 屋台のお姉さんが金髪を揺らしながら「参った参った」と、てれすに撃ち抜かれた景品を回収しながら言う。てれすは一発も外すことなく、景品をゲットした。


「てれす、すごい!」


「そ、そうかしら……」


 てれすの手をとって喜ぶと、てれすは頬を朱に染めて視線をわたしから逸らす。

 お姉さんから景品が差し出された。


「はい、景品。あなた、本当にすごいね」


「あ、ありがとうございます」


 小さく頭を下げて、てれすは景品を受け取った。


「また来てね」


 ひらひらと手を振るお姉さんにお礼を言って、わたしたちは射的屋さんをあとにした。

 スマホの時間を確認すると、そろそろ花火が始まるので場所を取りに行ってもいい頃かもしれない。

 

「てれす。花火の場所取り行こ?」


「ええ。あ、あのありす、これ」


 歩を進めながら、てれすが獲得したばかりの射的の景品をわたしに差し出してくる。


「いいよいいよ。てれすがゲットしたんだから」


「いえ、でも、すごく欲しがっていたから」


「え?」


 てれすには、わたしがそういう風に映っていたらしい。

 たしかに、けっこう悩んで景品を選んで、しつこく狙っていたからそう勘違いされても仕方なかったかも。でも、わたしはお腹がいっぱいなので、駄菓子ですら今は……。


「あぁ……あのね。実はてれすにあげたいなって、思ってから」


「そうなの? てっきり」


「ほら。わたしお腹いっぱいだし」


「た、たしかにそうね。ちょっと不思議には思っていたのだけど、もしかしたら、ありすはお菓子がすごく好きなのかなって」


「好きは好きだけど、てれすのほうが好きだし。てれすがもらってよ」


 てれすはけっこう学校にお菓子を持ってくるから、わたしよりもお菓子が好きなはず。景品はてれすがゲットしたんだし、わたしがお腹がいっぱいだし、てれすがもらうべきだ。

 てれすは一瞬だけきょとんとしていたけど、みるみるうちに顔が赤く染まっていく。


「え、ええ好き?」


「うん。てれす、お菓子好きでしょ?」


「あ、あぁそういう。ええ、好き。その、でも二人で分けて食べましょう?」


「いいの?」


「もちろんよ。そうしたいの」


「わかった。それじゃ、あとでもらうね。ありがと」


 帰ったから、おうちで食べよう。そんなことを考えつつ、足を進める。


「ありす」


「どうしたの?」


「今日はありがとう。すごく、すごく楽しいわ」


「え? こちらこそだよって、まだ花火見てないよ」


「……そうね」


 くすりと笑みを零すてれすに、わたしも微笑み返して、花火が見えやすい位置を目指した。


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