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ありすとてれす  作者: 春乃
162/259

162話 てれすと夏祭り 前編

 てれすと一緒に電車で移動すること十数分。

 わたしたちは夏祭りが行われている会場近くの駅に到着した。ここから少し歩いたところが会場となっているとはいえ、駅の中はごった返している。一度離れてしまったら、合流するのが難しそうだ。


 改札を出て、会場へ歩く途中、流れていく人の波を見ててれすがつぶやく。


「人酔いしそうだわ」


「たしかに……」


 普段生活していると、こんなに人が集まる場所に行くことなんてないから、息が詰まってしまうようだった。とはいえ、隣にはてれすがいて、手を繋いでいる。それだけでわたしの心は弾んだ。

 鼻歌混じりで会場に着くと、近くに大きな河川が流れているせいか、涼しくて心地のいい風が頬を撫でる。


「てれす、何する? 何したいとかってある?」


 スマホを確認すると、花火が打ち上げられるまではまだ時間に余裕があった。場所取りを考えて、少し早めに見やすい場所へ行くとしても、まだまだ遊ぶ時間はある。


 わたしが尋ねると、てれすは「そうねぇ……」と周囲に視線をやった。

 食べるもの、遊ぶもの、お祭りっぽいものはなんでもあって、選り取り見取りだ。

 てれすだけに任せてしまうのはあれなので、わたしも思案を巡らせていると、不意にお腹が鳴った。わたしのではない。


 ということは……とてれすに目を向けると、てれすは顔を真っ赤にしてわたしの視線から逃れるように、ぷ いっとそっぽを向く。そして、ぼそぼそと小さな声で言った。


「あの、お腹が減ったから、何か食べ物を……」


「うん。そうしよう」


 てれすっぽいかも。と苦笑いしながら、わたしたちはキラキラと輝いて見える露店が並ぶ通りを巡っていく。食べ物だけでもかなり種類が多い。


「いっぱいあるね~。てれす、何食べる?」


「……迷ってしまうわ」


 てれすも決めかねているみたいだった。


「あ、そうだ。それなら、色々買って分けない? そうしたら、いっぱい食べられるし」


 わたしの提案にてれすは、こくこくとうなずいた。


「ええ、そうしましょう……あ、あれが食べたいわ」


 こうして、わたしたちは色々な露店で食べ物を買っていった。

 ……わけだけど。


「お、お腹いっぱい……」


 羽目を外しすぎたというか、自分が食べられる量を計算できなくて、わたしは満腹だった。さすがに吐くまでは食べていないけど、お祭りの楽しい空気に流されてつい、食べすぎてしまった。

 わたしはお腹をさすりながら、隣をちらりと見る。一方のてれすは、未だに食べていた。今はさっき買ったタコ焼きを食べているところで、爪楊枝で口に運ぶ。


「――ッ! 美味しい……」


「てれす、よく食べるねぇ」


「そ、そうかしら?」


 本人はあまり自覚していないらしい。まったく、てれすの細い身体のどこに吸収されているんだか。

 太らない体質なのかなぁ、羨ましいなぁと眺めていると、てれすがちらちらと目配せして聞いてくる。


「その、ありすは食べる人は嫌、なの?」


「え? そんなことないよ」


 むしろ好きなくらいだ。今はお腹がものすごくいっぱいだから、正直食べ物を見たくないけど。

 もしかすると、わたしが言った言葉を、嫌みだと勘違いされたのかもしれない。変に誤解されたら、それこそ嫌なので、ちゃんと伝えなくては。


「てれす、すっごく幸せそうに食べるし、わたしは好き」


「そ、そう……ありがとう」


「どういたしまして?」


 なんでお礼を言われたのかわからなかったので、返事が曖昧な感じになってしまった。ちょっと首をかしげていると、わずかに頬を紅潮させたてれすがタコ焼きを差し出してくる。

 

「ありす、よかったら」


「へ? いいよいいよ。お腹いっぱいだし」


 遠慮でも何でもなく、ただただ満腹だった。

 しかし、拒否されたてれすは、子犬のようにしゅんと肩を落とす。


「そ、そう……」


「や、やっぱりもらおうかなぁ」


「ほ、ほんと?」


「うん」


 てれすは目を輝かして、つまようじに刺したタコ焼きをわたしの口へと近づけてきた。


「はい。あ、あーん」


「あーん」


 買ってから少し時間が経過しているので、ちょうどいい熱さ。生地はふわふわで、ソースとの相性抜群だ。中に入っていたタコも思っていたよりも大きくて、とても美味しかった。

 けど、やっぱりお腹いっぱいだ……。


 たこ焼きを飲み込んで、わたしは周囲を見回す。てれすはまだまだ余裕な表情なので、まだ買うのかもしれない。その前に、なんでもいいからワンクッション挟みたかった。


「てれす。せっかくだし、何かして遊ぼ?」


「ええ。でも、何をするの?」


「射的しよ、射的。腹ごなしに」


「えっと、わたしやったことないのだけど、撃つやつよね?」


「うん。落とした商品をもらえるやつ。わたし、けっこう得意なんだぁ」


 小さい頃、お母さんと一緒に来た別のお祭りで、上手と褒められたことを思い出す。


「そうなの? 見て見たいわ」


「じゃあ、決まりね」


 たこ焼きを全て食べ終えたてれすと、わたしは射的屋さんを探すことにした。


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