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ありすとてれす  作者: 春乃
161/259

161話 てれすと浴衣

 てれすと一緒に夏休みの宿題を終わらせてから数日。夏祭りが行われる土曜日になった。

19時から花火が始まるということなので、わたしとてれすは17時30分に駅で一回集まってから、一緒に行く約束をしている。


「てれす、まだかなぁ」

 

 つぶやくけど、早めに到着してしまったので、てれすが来るのはもう少し先になるだろう。

 駅を見渡してみると、わたしたちと同じくお祭りに行く人たちで活気に溢れていた。楽しそうに改札をくぐっていく人たち。その格好は色とりどりの浴衣で鮮やかなものだった。


 自分の服装に目を落とす。

 わたしの格好も周りの人々と同じように浴衣なんだけど、うーんと思案を巡らせる。


「てれすはどうなんだろ」


 てれすのことだから、浴衣ではなくいつもどおりの服装な気がする。わたしだけ張り切っているみたいになるのは、なんだか恥ずかしい。

 そうしたこともあって、そわそわと待っていると、スマホから軽快な着信音が聞こえた。


『もうすぐ着くわ』


『りょうかい!』


 返事をして、スマホを巾着にしまう。

それから数分後。

改札からてれすがやって来た。てれすはわたしを見つけて、パタパタと駆け足で向かって来る。


「ありす」


「あ、てれす――ッ!」

 

 わたしは目を見開く。

 てれすは浴衣姿だった。いつもは長くて綺麗な黒髪も、今日はまとめられている。それに落ち着いた色合いの浴衣がすごく似合っていた。

 わたしがじっと見つめて、見惚れてしまっていたからか、てれすが不思議そうに首をかしげる。


「あ、ありす? どうしたの?」


「ご、ごめん。てれすの浴衣が似合いすぎてて」


「そんなこと」


「ううん! すっごく似合ってる。綺麗だし可愛い!」


 まるで着物のカタログに載っているモデルさんみたいだ。

 わたしが拍手しながら言うと、てれすはほっぺたを真っ赤にして、顔をぷいっと逸らした。


「わ、わたしはいいって言ったのに、お母さんが着ていけって……」


「あぁ、なるほど」


 そういうことか、と納得する。

 わたしだけ浴衣にならなかったこと、そして、てれすの浴衣姿を見ることができたという二つの意味で、てれすのお母さんには感謝だ。目に焼き付けておくとしよう。

 しかし、当の本人であるてれすは、恥ずかしそうに目を伏せていた。ちらちらとこちらを見て言うものだから、上目遣いになって破壊力がすごい。


「わたしも浴衣だし、わたしはすごくよかったと思うよ?」


「そ、そう?」


「うん。ほら、一緒だし」


 自分も浴衣であることをアピールする。

 と、てれすはうなずいた。


「……そうね。ありすと一緒。あの、ありすも、すごく素敵よ」


「あ、ありがとう」


 社交辞令かも、とは思うけど、てれすに言われるのはすごく嬉しい。

 わたしは照れ隠しも含めて、移動を促すことにした。


「えっと、そろそろ行こうか。まだ花火は始まらないけど、屋台とか巡りたいし」


「そうね。花火って何時からだったかしら」


「19時だよ。だから、一時間くらいは遊べるんじゃないかな」


「会場、けっこう遠いのよね?」


「うん。ちょっと遠出になるかも」


 てれすと遠出をするのは、これが初めてかもしれない。というか、こんな時間に出歩くのが初めてだ。そう思うと、ちょっとドキドキする。

 しかし、てれすの表情は曇っていた。


「人、絶対すごいわよね……」


「だろうねぇ」


 会場までまだ距離があるうちの近くの駅ですら、この人だかりだ。向こうに着けば、これ以上になるのは間違いない。


「あの、ありす。だから……」


 てれすがもじもじとしながら、右手を差し出してくる。


「……? あぁ、うん。そうだね」


 すぐにその意味はわかった。

 手を繋ぎたい、ということだろう。周りにも手を繋いでいる人はいっぱいいたし、わたしたちも。


「はい。たしかに、はぐれたら大変だもんね」


「……ありがとう」


「ううん」


 わたしはてれすの右手をぎゅっと握り返す。

 そして、わたしたちはお祭りへ向かった。


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