159話 また、みんなで
「あー、楽しかった!」
カラオケ店から出てすぐ、駅に向かう途中で、赤川さんが満足げにつぶやいた。
結局、わたしとてれすの問題もあったので、わたしたちは予定していた時間を延長して楽しんだ。
高井さんも赤川さんも、その件はもう気にしなくていいと言ってくれたけど、もう一度謝っておこう。
「二人とも、今日は最初のほう、ごめんね」
わたしの謝罪に、赤川さんは笑顔を崩さないままで首を横に振る。
「いいよいいよ。ね、高井?」
「うん。楽しかったからね。ところで、二人は何で喧嘩してたの? というか、喧嘩だったの?」
「あぁ、それは――」
と内容を話そうとしたとき、てれすに袖を引っ張られた。
「ちょっと、ありす。あんまり言ってほしくない、かも……」
「え? それじゃ、やめておこうかな」
てれすとしては、勘違いのような部分もあったから、言ってほしくないのかもしれない。
わたしが嘘を吐いてしまったのが発端とはいえ、おばあちゃんの家に行く日程と重なって、嫌われたと勘違いをした、と2人に言われるのは恥ずかしいのかも。
てれすが嫌というのなら、言うのはやめておこう。
わたしが途中で言葉を飲み込んだので、赤川さんはお預けをされた感じになっていた。
「えぇ、気になる。けど、ちゃんと解決したんだよね?」
「うん。それはもう、ばっちり。ね、てれす」
「ええ」
てれすもすぐに首肯する。
「それならいいや。最上さんと高千穂さんが険悪なのって、見たことがなかったから、びっくりしたよ」
「あはは、心配かけてごめんね」
「うん、仲直りできたならよかったよー」
「赤川さんと高井さんのおかげ。今日は本当にありがとう」
「いいっていいって。それより、最上さんと高千穂さんも楽しめた?」
「うん。もちろん。てれすは?」
わたしが尋ねると、てれすはこくりとうなずいた。
「ええ。みんなでこういうのも、意外と悪くないのね」
「よかったぁ。高千穂さんが楽しめてるか不安だったから。また、みんなで何かできたらいいよねぇ」
てれすの感想に安堵の息を吐いた赤川さんがつぶやいた。高井さんが同調する。
「また来ればいいと思う」
「たしかに。それに、カラオケに限らず二学期は行事がたくさんだから、こういう機会はいっぱいあるよね」
赤川さんの言葉で、修学旅行が迫って来ていたことを思い出した。
「そういえば、もう一か月くらいで修学旅行だね」
楽しみだった夏休みも、もうわずか。二学期はもうすぐそこだ。二学期は、修学旅行を皮切りに、文化祭と大きな学校行事が立て続けにある。
てれすと一緒にいろいろなことができるのは、すごく楽しみだ。
「てれす、一緒に回ろうね」
「ええ。えっと、京都だったかしら?」
「うん、そうだよ。清水寺とか、金閣寺とか、伏見稲荷大社とか。すっごく楽しみ!」
さすがは修学旅行の定番というか、観光名所と呼ばれる場所がとてもたくさんある。食べ物とかも、絶対美味しいと思う。小学校や中学校の修学旅行は京都じゃなかったから、わたしは人生初京都だ。考えているだけで、わくわくする。
気を抜くと鼻歌を歌ってしまいそうだ。
そんなわたしの様子を見てか、てれがくすりと笑う。
「ふふっ、そうね」
と。
「ねぇ、最上さん、高井さん」
前を歩いていた赤川さんが、わたしとてれすの会話を聞いていたようで、振り返って提案する。
「一緒のグループにならない?」
「あ、たしかに。それいいかも!」
赤川さんの名案に、わたしは両手を合わせて同意した。
「いいよね、てれす?」
「ええ、いいと思うわ」
そうこうしているうちに、駅へと戻ってきた。
「それじゃ、またね最上さん」
「うん。今日はありがと。てれす、またね」
「ええ。また」
三人を改札で見送って、帰路につく。
さっきまで、わいわいと会話をしていたから、オレンジ色に焼けている空がなんだか寂しく感じられた。
だけど、すぐに首を振る。
てれすとは仲直りできたし、残りの夏休み中、一緒に遊ぶ約束もした。それに、二学期はもっともっと楽しくなる。
まずはてれすとの夏休みの予定を考えて、連絡しよう。宿題とか、夏祭りとか、まだまだ夏は終わりそうにない。
わたしはスキップしたくなる気持ちを抑えながら、お家に帰るのだった。




