155話 カラオケへ
それから3日後。
高井さんと赤川さんと約束のカラオケの日がやって来た。
お昼の2時に駅に集合する約束なので、お昼ご飯を食べてからわたしは出かける準備をする。
夏休みが始まる前から、この日が来るのはすごく楽しみで待ち遠しかった。気を付けていないと鼻歌を歌ってしまいそうになる。だけど。
「……」
机の上にあるスマホを見て、わたしは短く息を吐く。
てれすとはあれ以来、連絡を取っていない。
『わかったわ』と端的な返事が返って来たっきりだ。ちょっと不思議に思ったりもしたけど、結局この日になった。もう、ここまで来たら逃げることはできない。というか、実際に会えば、もしかするとわたしの勘違いということもあるかもしれない。
そんなことを考えながら、帽子を選んで姿見の前に立ってチェックする。お母さんに外は暑いから、絶対に帽子をかぶっていきなさいと言われていた。
日差しがきついときは、帽子をかぶっているのとかぶっていないのとでは本当に違う。
「……よし」
時間もいいくらいになったので、わたしが駅に向けて出発した。
駅には約束の10分ほど前に到着した。
スマホでMINEを確認するけど、どうやらまだ誰も来ていないらしい。高井さんと赤川さんはお家の方向が同じって言っていたから、一緒に来ると思う。てれすはいつもの電車で来るだろう。
どっちが先に来るかなぁ、と待っていると着信音が鳴ってメッセージが届いた。
『最上さん、もうすぐ着くから』
高井さんからだった。
『了解』
と返信をして、ホームのほうに目を向ける。
どうやら、てれすよりも高井さんと赤川さんのほうが先にやってくるみたいだ。
というより、てれすからは何も連絡がないのが心配だ。こういうときは、いつもてれすは近くに来たら連絡をしてくれていた気がする。もしかして、来ないなんてことはないよね……?
わたしは嫌な未来を想像してしまって、服の胸元をきゅっと掴む。心中穏やかでなくなっていると、
「最上さん」
声をかけられて振り返る。
高井さんと赤川さんが立っていた。高井さんは髪をポニーテールにまとめていて、赤川さんはショートカットを風で揺らしている。二人とも、動きやすそうなラフな格好だった。
「久しぶり、最上さん」
「あぁ、そっか。終業式以来だもんね」
「うん。MINEで連絡してたから、そんな気はあんまりしないけど」
苦笑する高井さん。その隣の赤川さんがきょろきょろと周りを見回して言う。
「そういえば、高千穂さんは? まだなの?」
「まだみたい」
「連絡は?」
「来てないの」
「そっか。まさか、寝坊とかってことはないよね?」
赤川さんの言葉に高井さんが笑いながら否定する。
「さすがにそれはないでしょ。2時だよ?」
「まぁ、そうだよね」
わたしも二人を首肯して、待つこと数分。2時を少し過ぎたころに、てれすが慌ててやって来た。荒い息のまま頭を軽く下げる。
「お、遅れてしまってごめんなさい」
「いいっていいって、高千穂さん。わたしたちもさっき来たところだし。ね、最上さん?」
「え、う、うん。てれす、気にしないで?」
わたしが言うと、てれすは一瞬だけこちらに顔を向けた。しかし、すぐに目を逸らす。
「……ごめんなさい。ありがとう」
とりあえずは無事にみんな集合できた。高井さんがみんなを促す。
「それじゃ、行きますか。最上さん、案内してくれる?」
「おっけー。こっち」
わたし、高井さんと赤川さん、最後にてれすという順番で、前にてれすと二人で行って、てれすのお誕生日会をしたカラオケに移動する。その途中、高井さんが質問した。
「最上さんと高千穂さんは一回来てるんだよね?」
「うん。練習にね」
「練習って、もしかして期待してもいい感じ?」
「え!? いや、それは……」
「あはは、冗談。二人はカラオケとかって、よく来るの?」
「わたしは、たまにって感じかな」
わたしが答えて、続けててれすが返答する。
「……あまり」
そういえば、てれすはわたしと一緒に来たときが初めてだって言ってたもんね。でもでも、歌は本当に上手だった。ぜひとも高井さんと赤川さんにも聞いてもらいたい。
「あ、でもね。てれすは歌上手なんだよ」
「そうなの?」
「いえ、別にそんなに……」
てれすの受け答えに、わたしは首をかしげる。やっぱり、いつもと少し違う気がする。どこがどうって、はっきりはわからないけど、違う気がする。
同じことを感じたのか、高井さんが声を潜めて尋ねてきた。
「ねぇ、最上さん」
「なに?」
「高千穂さん、どうかしたの? なんだか、少し変じゃない?」
「うーん、わかんない」
「何かあったの?」
「え、ないと思うけど……」
少なくとも、わたしには思い当たる節がなかった。てことは、てれすの個人的な問題で、何かあったのだろうか。
思案を巡らせながらも歩を進めていって、
「ここだよ」
目的のカラオケに到着した。




