153話 夏休み残りの予定
高井さんからカラオケを行う日の日程を聞いたので、わたしはてれすに伝えるために、MINEのトーク画面を高井さんからてれすに移動する。
20日にしようって、その場の感じで言っちゃったけど、てれすは予定大丈夫だろうか。ちゃんとてれすに確認してから、カラオケの予定を決めたほうが良かったかもしれない。
もしもてれすに予定があったら、そのときは高井さんに相談しよう。そう思いながら、ポチポチと文字を打ち込む。
『やっほー、てれす。今、大丈夫?』
すると、すぐに既読の文字がついた。返信もすぐさま返って来る。
『問題ないわ。どうしたの?』
『えっと、カラオケのことなんだけどね』
高井さんから連絡があった日程を、そのまま伝えればいいだけだ。でも、それだけだと、なんだか寂しい感じがして、わたしは文字を打ち込んでいた指の動きを止める。
せっかくてれすと今、時間を共有できているのに、もったいないというか、正直言うと、ここ最近はてれすに会うどころか声すら来ていないので、声を聞きたくなってしまった。
普通なら、文字で伝えればそれで終わりなんだけど、それじゃあ嫌だな……。
だから、わたしは日程を文字にするのではなく、他の文章をメッセージとして送った。
『あの、今、電話してもいいかな?』
『今? ええ、いいけれど』
『ありがと』
てれすの許可も出たので、すぐに通話ボタンを押す。
すぐにてれすが電話口に出た。
『もしもし、てれす?』
『ええ、ありす』
『ごめんね、電話なんかしちゃって。ちょっと声を聞きたいなって』
『……わたしも、そう思ってたから嬉しいわ』
『そっか、よかった』
『ええ』
『あ、そうだ。カラオケのことで連絡したんだけど』
『ああ、そうだったわね。高井さんと赤川さんと、終業式の日に話していたことよね?』
てれすもちゃんと覚えてくれていたらしい。
その言葉を首肯して、高井さんからお願いされたカラオケの日程を伝える。
『そうそう。さっき、高井さんから連絡があってね。20日にやろうかって、ことになったんだけど、てれす大丈夫?』
『ええ、問題ないわ』
『よかったぁ。あ、まだ日程だけで場所とかは決まってないから、決まったらまた連絡するね』
『わかったわ。お願いね』
よし、とりあえずは伝えるべきことは全て伝えたと思う。頭の中で、忘れていることはないかを確認して、わたしはうなずく。
あんまり長電話しても迷惑だろうから、今日はこの辺にしておこう。もっとてれすと話したいけど、それは我慢だ。
『それじゃ、また――』
『あ、ありす』
『どうしたの?』
またね、おやすみ、と言おうとしたとき、てれすが慌てたように言ったので、首をかしげる。てれすのほうにも、何か言いたいことがあったのかもしれない。
『その、また夏休みのうちに遊べないかしら』
『へ? うん。もちろんいいよ』
『本当?』
『うん。嘘言わないよ』
『そ、そうね。えっと、それなら、今週の土曜日とかって、どうかしら』
『今週か……』
うーん、とほっぺたを掻く。
ついさっきご飯のときお母さんから、お盆の周辺は予定を入れるなと言われてしまっていた。土曜日は、ちょうどお盆の始まりくらいで、おばあちゃんの家に行く日か、もしくはすでにおばあちゃんの家にいる日だ。
申し訳ないけど、断るしかない。
『ごめん。今週の土曜日はちょっと無理なの。というか、その辺りからおばあちゃんの家に行くから、しばらく会えないかも……』
『え……、そ、そう』
『うん。ごめんね』
『いえ、それなら仕方ない、わよ』
『ほんとごめんね、てれす。カラオケの後とか、その辺りの日なら大丈夫だから』
『え、ええ。あ、そろそろご飯だから、切るわね。おやすみなさい』
『え? う、うん。おやすみ』
わたしの「おやすみ」の声が聞こえたかどうか、わからない微妙なくらいのタイミングで、通話が切れた。
胸の辺りがモヤモヤする感じになってしまったけど、夏休み中に遊ぶ約束はたぶんできたし、大丈夫、だよね?




