151話 気のせい?
映画を観終わって、わたしと美月ちゃんは人の波に流されるようにして、エントランスまで移動した。休日ということ、そして、美月ちゃんが言ったように人気がある小説が原作だったということもあって、座席は満席だった。
内容も申し分なくて、とてもおもしろかった。中盤とラストは感動して、泣いてしまったくらいだ。
それは美月ちゃんも同じだったようで、
「美月ちゃん、大丈夫?」
「はい、すみません」
美月ちゃんがティッシュで鼻をかみながら答える。目は赤く腫れていて、号泣したんだなぁとすぐに理解できた。
「いいよいいよ。わたしも、すごく感動したもん」
「ですぅ……あのラスト、ダメですよぉ……」
「まさかだったよね」
前半の雰囲気から感動する系のお話だと、なんとなく感じていたけど、あのラストシーンは想像していなかった。衝撃的過ぎて、時間が止まったと錯覚したくらいだった。
イスに座って、美月ちゃんが落ち着くのを待つ。背中をさすっていると、
「最上先輩、ありがとうございます」
「気にしないで」
それか数分して、美月ちゃんは立ち上がった。
まだ目は赤いけど、感情は収まったらしい。
「すみません、最上先輩。行きましょう」
「もう大丈夫なの?」
「はい。お見苦しい所をお見せしました」
「そんなことないよ。わたしだって、ちょっと泣いたし」
さすがに美月ちゃんほどじゃないけど。
でも、あれだけ感受性豊かなのは、ちょっと羨ましい。それだけ作品に入り込んで没頭して、楽しめたということだから。
そんなことを考えながら美月ちゃんを見ていると、美月ちゃんはスマホで時間を確認してわたしに言う。
「先輩。お昼ご飯でいいですか?」
「うん。どこがいいとか、もう決めてるの?」
「決まってないです。適当に歩いて決めようかなって」
「わかった。それじゃ、行こ」
「はい!」
こうして、わたしたちは映画館を後にした。
ゲームセンターや雑貨屋さんの横を通り過ぎて、ご飯屋さんが並んでいるエリアへと移動する。その途中。
「あれ?」
「どうしました?」
美月ちゃんが首をかしげてくる。
「あぁ、いや。ううん」
とある雑貨屋さんの中に、てれすがいたような気がした。
でも、そんなわけないよね。きっと気のせいだ。
わたしが曖昧な回答をしたからか、美月ちゃんは少し不思議そうにしていた。
「そうですか?」
「うん」
「じゃ、行きましょう」
再びご飯エリアを目指す。
もう一度だけ振り返って、あのお店を見て見たけど、今度はてれすっぽい人はどこにもいなかった。やっぱり、気のせいだったみたいだ。
美月ちゃんと遊んでいるのに、こんなにてれすのことばかり考えちゃうなんて。
いるわけない、と心の中でつぶやいて、わたしは美月ちゃんの隣に並んで歩いた。
お昼ご飯は、カフェのようなお店で食べることになった。コーヒーなどがメインみたいだけど、サンドイッチなどのメニューも豊富で、とても美味しかった。
大満足でお昼ご飯を食べた後、美月ちゃんの提案でゲームセンターやウィンドウショッピングをすることになった。
そして時間は過ぎていって、時刻は夕方。わたしたちは帰路についた。
駅でお別れする。
「今日は楽しかったです、最上先輩」
「わたしも、すごく楽しかったよ」
「ほんとですか! よかったです」
そんなに笑顔で言われると、少し照れてしまう。
今日は一日、本当に楽しかったし、美月ちゃんの新しい一面を見ることもできた。つくづく、いい後輩をもったなって思う。
「あの、最上先輩」
「どうしたの?」
「また、遊んでくれますか?」
「もちろん」
「あ、ありがとうございます!」
と。
夕暮れの時間に合わせて流れる音楽が聞こえ始めた。周りも仕事帰りのすーつづ型の人が増えてきている。
「それじゃあ、最上先輩」
「うん。またね、美月ちゃん」
手を振って別れて、わたしはお家に向かって歩き出した。




