15話 壁打ちの成果
壁打ちをすること数十分。
わたしはなんとかラケットにボールを当てて、返すくらいはできるように成長した。
壁限定だけど。
「つ、疲れた……」
壁打ちとはいえ、打ちっぱなし。外。疲れる。
わたしはふぅ、と息をはいてベンチに座り、タオルで汗を拭う。
壁が相手ではあるものの、少しだけ打てるようになってくるとテニスの楽しさがちょっとはわかった気がする。
やっぱりテニスは、ラケットを飛ばすのではなく、ボールを打つスポーツなんだなと感じました。
一息ついていると、てれすがいないことに気づく。
と、
「ひゃう!?」
突如として、わたしの首筋に冷たいものが当てられる。
びっくりして振り返ると、そこには微笑むてれすの姿が。
するとてれすは、手に持っていたペットボトルをわたしに差し出す。
「はい。お疲れ様」
「ありがとう。あ、アクエットだ。わーい」
ちょうど飲み物が欲しかったところ。最高のタイミングだ。
わたしはてれすからアクエットを受けとると、キャップを外して一口。
いや~、運動のときはこれに限りますなぁ~。
「休憩が終わったら、ラリーしましょ?」
てれすがわたしの隣に座りながら言う。
「やったー。でも大丈夫かな、わたし」
さきほどのラケット事件のこともあり不安になってしまう。
次したら、どうなってしまうのやら……。
が、それを払拭するようにてれすが笑う。
「大丈夫よ。ラケットには当たるようになったのだし、なんとかなるわ」
「……そうだよね。精一杯やってみるよ」
よくよく考えたら、失うものなんてない。
最初のラリーでは、一度も打ち返せていないし、ラケットを飛ばした。
おそらくこれ以上はひどくならない。
失うものといえば、わたしとてれすの体力くらいだ。
まだ壁打ちだけど、そのわたしがここまで成長した。
いろいろ教えてくれたてれすには、お礼くらいは言っておこう。
「てれす、いろいろありがとう」
わたしが何気なーく感謝を口にすると、それを思ってもいなかったのか、てれすはほんのり頬を染める。
「べ、別にたいしたことはなにも……」
「いやいや。あのラケット飛ばしのわたしが、てれすにラリーしようって言われるほどになりましたよ」
てれすの教えあってこそだろう。
実際、てれすの説明とかすごくわかりやすかった。
「……誉めてもアクエットくらいしか出ないわよ?」
照れ隠しなのかはわからないけど、てれすが自動販売機を指差して言う。
アクエット貰えるんだ……。
「それはお腹がタプタプになるから、遠慮しとくよ」
うふふ、あはは、と二人で笑う。
さぁ、ラリーリベンジといきますか。




