149話 てれすと誕生日の夜
てれすサイドのお話です。
ありすに誕生日パーティーをしてもらって、生まれて初めてカラオケに行ったその日の夜。友達にお祝いしてもらうことも、プレゼントをもらったのも、カラオケも初めてだったけど、それ以上にびっくりすることがあった。
「……」
晩ご飯を食べている私の前には、お母さんが座っていて、一緒にご飯を食べている。こうして同じ食卓を囲むのは、いつ以来のことだろうか。高校生になってからは一度もなかったから、少なくとも2年以上ぶりだ。
仕事が忙しい中、わたしのために時間を作ってくれたのはとても嬉しい。けど、それ以上に居心地の悪さを感じてしまう。
お互いに会話もなくて、美味しいはずのご飯の味を感じない。
「てれす」
「な、なに?」
変に身構えてしまう。
お母さんの視線はわたしというよりも、わたしの頭に向いているようだった。
「そのヘアゴム、どうしたの?」
「これ?」
お箸を置いて、ありすからもらったヘアゴムに触れる。嬉しさのあまり、もらってから今日はずっとポニーテールで過ごしていた。
「友達に貰ったの」
「あの子? えっと、最上さんだったかしら」
「うん。最上ありす」
「お礼はちゃんと言った?」
「うん」
「そう。よかったわね、似合ってるわよ」
「あ、ありがとう……」
まさかお母さんに褒めてもらえるとは思わなかった。それに、ありすから貰ったものを褒めてもらえるのは、ありすのことを認めてもらったみたいで、特別嬉しく感じる。
続けてお母さんは、わたしに封筒を差し出してきた。
「はい、てれす。お誕生日おめでとう」
いつも誕生日の朝、ダイニングの机の上に置かれているものと同じだ。だから、中を見ずとも中身はわかった。受け取ってお礼を言う。
「ありがとう」
「いいえ。何が欲しいかわからないから、これで好きなものを買って?」
「うん」
食事が終わるとお母さんは大慌てで家を出ていった。一緒にご飯を食べるためだけに帰って来てくれたらしい。
ありすとお母さん。今年の誕生日はいつもよりもちょっと特別な誕生日になった。
「そういえば」
さっき電話でありすの誕生日を聞いたことを思い出す。
10月15日。
まだまだ先だけど、絶対にわたしにしてくれたこと以上はしたい。事前に準備をできることは進めておくに限る。それに、さっきお母さんが言っていたようにプレゼントで何が欲しいかなんて、わたしはわからない。
「よし」
カレンダーを見て予定を決める。
次の土曜日、気が少し早いかもしれないけど、善は急げ。ありすへのプレゼントを探しに行くことにした。
そして土曜日。駅で電車を待っている途中、わたしは猛省していた。
「どうして平日にしなかったのかしら……」
今は夏休みだから、高校生が平日のお昼に出歩いていてもなんら不思議ではない。
だけど、ありすと会って学校をサボらなくなったから、予定を休日に入れるという癖がついてしまっていた。だからつい、平日ではなく休日に行動することを選んでしまった。
夏休みの宿題も、例年とは比べ物にならないほど進めてしまっているし、我ながら、本当にありすに影響されていると思う。
ありすのことだから、きっと宿題は7月の間に終わらせてしまうのだろう、とてもありすらしくて笑みが零れるけど、一緒に勉強できなくて、ちょっと残念だ。
そんなことを考えていると、電車はショッピングモール前の駅に到着した。
改札を出て、ショッピングモールに向かう。
ありすと一緒に歩いた道。ありすと映画を観て、ありすとパンケーキを食べた場所。このショッピングモールなら、きっとありすの好きそうなものだってあると思う。
ありすにもらった、このヘアゴム以上に良いものなんて見つかるかわからないけど、だからそこ、こんなに早くリサーチに来たのだ。
ありすに喜んでもらうため、わたしはショッピングモールに入って行くのだった。




