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ありすとてれす  作者: 春乃
146/259

146話 てれすの初カラオケ

 ケーキもプレゼントも喜んでもらって、

 次はカラオケで歌う練習をしたいのだけど、いかんせん、てれすを膝枕している状態が続いている。これがわたしの家とか学校だったらこのままでもいい。でも、カラオケは時間制だから、このままでいるわけにもいかない。


「さ、てれす。そろそろ歌おう?」


「……そうね」


 少し残念そうにつぶやきながらも、てれすが起き上がる。

 今日はてれすの誕生日会をやるのも目的の一つだけど、カラオケの練習をするのも忘れてはいけない。

 テーブルの上にあるリモコンを手に取って、てれすに尋ねる。


「てれすって、どういう曲が好きなの?」


「うーん、特に好きな曲とかはない、かしら」


「そっかぁ……これ見て適当に探す?」


「そうね、そうするわ」


 リモコンをてれすに渡すと、てれすはピコピコ操作して曲を探し始めた。わたしはジュースを飲みながら、それを見守る。

 やがて、色々試しながら検索していたてれすの手が止まった。


「あ、これは知っているわ」


「あぁ! これって、たしかドラマの主題歌になってたよね?」


「そう、なのかしら。あまりテレビを見ないから知らないわ」


 たしか2、3年前に放送されていた恋愛ドラマだったような気がする。お母さんと一緒に見ていたことを思い出した。

 たぶんだけど、赤川さんや高井さんも知っていると思うし、「懐かしい!」とか言って盛り上がりそうだ。


 相手に合わせるとかじゃなくて、自分が好きな曲を歌えばいいと思うけど、てれすの選択は無難と言うか、とりあえず浮くことはないだろう。


「じゃあ歌おう! 楽しみだなぁ」


「そ、そんなに期待しないで……別に普通よ?」


「またまたぁ」


 なんでも上手くこなすてれすだから、嫌でも期待してしまう。てれすはわたしの視線から逃れるように顔を逸らして、曲を選択した。

 イントロが始まって、てれすが歌い始める。


「~~♪」


「――ッ!」


 めちゃくちゃ上手かった。

 2年生になってからはカラオケに来たことはなかったけど、今までに来た誰よりも、てれすは上手かった。聞いていて心地いいというか、素人のわたしでもすごいとわかる。さすがてれす、さすてれだ。


 てれすは歌うことに一生懸命になっているようで、わたしがそんなことを考えているとは思ってもいなさそうだ。テレビ画面を見ていた。

 歌声もさることながら、真剣な横顔が美しい。

 てれすの歌に聞き惚れていること数分。


「~~♪」


 歌い終わって、てれすは安堵の息を吐いた。マイクを握っていた手を下ろして、わたしのほうに振り向く。


「どうだったかしら?」


 わたしは全力の拍手でそれに答える。スタンディングオベーションだった。


「すごい! すごいよ、てれす!」


「え、そ、そうかしら?」


「うん。すっごくよかった!」


 思わずてれすの手を握って、感動を伝える。てれすは照れたようにほっぺたを赤く染めて、顔を俯けた。


「あ、ありがとう……」


「ううん」


「あ、そうだ、ありす」


「なぁに?」


 首をかしげる。


「その、一緒に歌いたい、わ……」


「一緒に?」


 てれすはコクッとうなずく。


「ダメ、かしら」


「ううん、ダメじゃないけど」


 わたしが入っちゃうと、てれすの邪魔にしかならないような気がする。


「わたし、そんなに上手くないけどわたしとでいいの?」


「もちろんよ。わたしはありすの歌、好きだわ」


「あ、ありがとう……」


 今度はわたしが照れる番だった。

 顔が熱くなって、なんだか恥ずかしい。てれすに指摘される前に話を逸らす。


「えっと、それじゃ練習しよっか?」


「ええ」


 それから、わたしとてれすは一緒に歌う曲を選んで、練習した。もちろん、個人で好きな曲も歌って、あっという間にカラオケの時間は過ぎていった。

 2時間では少なかったかもしれない。

 ということで、少しだけ延長して、てれすの誕生日会兼カラオケの練習は終わった。


 カラオケ店を出て、てれすを見送るために一緒に駅へと向かう。

 

「いや~、歌った歌った」


「初めてだったけど、すごく楽しかったわ」


「あはは、そう言ってもらえるとありがたいよ」


「プレゼントとケーキも、本当にありがとう」


「ううん。喜んでもらえて、嬉しい」


 てれすは優しい手つきで、髪をくくっているヘアゴムに触れる。


「大切にするわ」


 やがて駅が見えてきた。

 このままてれすの家についていきたいところだけど、それはグッと我慢。手を振って、てれすと別れる。


「それじゃあ、またね」


「ええ、また」


 夏休み中で、学校があるわけじゃないのに「またね」と言い合えたことに嬉しくなった。


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