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ありすとてれす  作者: 春乃
145/259

145話 プレゼント フォー てれす

 幸せそうにケーキを食べてくれているてれすを見ていると、わたしまで嬉しくなってくる。この前離した通り、やっぱりてれすはイチゴを最後に食べていた。わたしもそうだから、親近感がわいてくる。小さなことだけど、てれすと一緒というだけで、ちょっぴり嬉しい。

 てれすはケーキを食べ終えて、フォークをお皿に置く。


「ありす、美味しかったわ。ありがとう」


「ううん、どういたしまして」


 てれすの笑顔を見れただけで、今日はもう満足だ。……と言いたいけど、誕生日会はまだまだ始まったばかり。てれすのためにがんばらなくては。

 わたしはケーキの上からお皿に移しておいたイチゴをてれすに差し出す。


「てれす、イチゴいる?」


「え? でも、それはありすの分でしょう?」


「そうだけど、てれす好きでしょ?」


「好きだけど、でも」


 てれすも同じイチゴは最後に食べる派閥だから、その楽しみを奪ってしまうことの重大さをわかっているのだろう。だから、てれすの返答ははっきりとしない。


「いいのいいの。てれすは誕生日なんだから、今日くらいは遠慮なく、わがまま言ってくれていいんだよ?」


「本当にいいの?」


「もちろん。あ、でも、お金はあんまり持ってないから、わたしにできることにしてほしい、かな」


 わたしが何かをするばかりでなく、てれすが望むのならそれも叶えてあげたい。

 てれすは少しの間、じっと思案していたしていた。それから「うん」とうなずいて、わたしに言う。


「その、ありす……」


「なぁに?」


「と、隣に来てくれる?」


「席?」


「ええ」


「わかった」


 てれすの言う通り、隣に移動する。教室の距離よりも近くて、例えるなら映画館の隣同士。つまり、けっこう近い。


「どうしたの?」


「えっと、食べさせて、ほしい……かも」


 この距離でもギリギリ聞き取れるくらいの小さな声で、てれすが言った。そして俯く。


「イチゴ?」


 恥ずかしそうにほっぺたを赤らめて舌を向いていたてれすが、こくっとうなずいた。

 

 もちろん、そのくらいなら断るはずもない。わたしは一度をフォークでとって、てれすの口に運ぶ。


「はい、あーん」


 てれすの色のいい桜色の唇が開かれて、そこにイチゴを入れる。


「どう? 美味しい?」


「……美味しい」


「よかった。あ、そうだ、てれす」


「?」


 プレゼントを渡すいいタイミングだと思ったので、わたしは自分のカバンから、可愛らしいピンクの包装紙に包まれたものを取り出す。片手で持てる小さな袋だ。

 てれすは一体何が始まるのか、と首をかしげていた。


「はい、てれす。プレゼント」


「え!」


 わたしから差し出されたものを見て、てれすはものすごく驚いていた。大きな瞳がさらに大きく見開かれていて、落ちてしまうのではないかと心配になる。


「わたしに?」


「他に誰がいるの」


「そ、そうね。もらっていいの?」


「うん。逆にもらってくれないと、悲しい」


「もらうわ。えっと、開けていい?」


「うん、どうぞ」


 わたしの返事を聞いて、てれすは包装紙を開けていく。

 気に入ってもらえるかすごく不安だ。今更になって、あっちにしておいたほうが良かったのではないか、という気持ちを抱いてしまう。


「あ、これヘアゴム?」


「うん。てれすに似合うかなって」


 わたしが渡したのは花柄があしらわれたシンプルだけど可愛らしいヘアゴムだ。体育の日とか、てれすはポニてれすになるから、いいかもしれないと思ったのだった。


「ありがとう、大事にするわ」


「使ってね?」


「ええ、もちろん。あ、今から使うわ」


「えぇ!?」


 わたしが驚いている間に、てれすはささっと髪をまとめてポニてれすに変身した。さっきまでと印象ががらっと変わる。自分があげたものを身に着けてくれていると思うと、嬉しさが込み上げてきた。


「どう、かしら?」


「似合ってる。似合ってるよ、てれす」


「ありがとう。使わせてもらうわ」


 少し照れたのか、てれすははにかむ。そして、力が抜けてしまったかのように、てれすがわたしの膝に落ちてきた。俗にいう、膝枕である。


「わわっ!? てれす!?」


「少し、こうしていてもいい?」


「うん、いいけど……」


 ありがとう、とてれすは今日何度目かわからないお礼を口にした。


「こんな風にお祝いをされたことなんて初めてだから、本当に嬉しい」


「そうなの?」


「ええ。仲のいい人とかいなかったし、お母さんもずっと忙しいから。……誰かにお祝いしてもらって一緒にケーキを食べて、プレゼントまでもらえるなんて、夢みたい」


「そっか」


 思わず、てれすの髪をよしよしと撫でていた。てれすに嫌がる様子はない。


 すると、イントロが鳴り始める。曲を入れたのは、もちろんわたしだ。

てれすは眉をひそめていたけど、わたしはマイクを手に取った。てれすを膝の上に乗せたまま、歌いだす。


「ハッピバースデートゥユー~、ハッピバースデートゥユー~、ハッピバースデーディア、てれす~。ハッピバースデートゥユー~! てれすおめでと~!」


 マイクを置いてパチパチと拍手する。


「ありす」


「どうしたの?」


「……ありがとう。本当にありがとう」


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