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ありすとてれす  作者: 春乃
144/259

144話 てれす誕生日会

 スマホの着信音が鳴って、わたしはMINEを起動させる。メッセージを送って来た相手は、今わたしが待っている相手でもあるてれすだ。てれすっぽい簡素な文字列に、自然と笑みが零れる。


『もうすぐ着くわ』


「了解、っと」


 夏休みに入って数日が経過した7月24日。つまり、今日はてれすの誕生日だ。

 てれすが行ったことがないというカラオケ店に行くため、そして無論、てれすの誕生日会を行うためにわたしは主役のてれすを駅で待っていた。

 カラオケ屋さんの予約もして、ショッピングモールでプレゼントも買ったし、右手にはケーキの入った箱を持っている。準備は万端だけど喜んでくれるか、すごく不安だ。さっきから、そわそわした気持ちが収まらない。

 

 スマホを確認すると、てれすが乗っている電車が到着する時間になっていた。

 画面から顔を上げて周囲を見回す。

 駅の構内は、平日の昼下がりということもあってか、朝や夕方に比べると人の流れは緩やかに見える。これなら、てれすが来たらすぐにでも発見できるだろう。

 と。


「ありす」


 声をかけられて振り向く。


「てれす!」


「ごめんなさい、待たせてしまったようね」


「ううん、大丈夫。さっき来たところだから」


 てれすの格好はもちろん制服ではなく私服。学校以外でてれすに会うのはもう何度も経験しているけど、やっぱり制服とは全然雰囲気が違う。

 てれすにかかれば、額の汗も宝石のように輝いて見えた。


「あ、ありす? その、あんまり見られると……」

 てれすに指摘されて、わたしははっとする。


「あ、ごめん。カラオケ屋さん予約しているから、行こうか」


「わざわざ予約してくれたの?」


「うん。平日だから大丈夫かなって思ったけど、夏休みだから一応ね」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 時間を見ると、予約していた時間が迫ってきていたので、二人で少し急ぎ足でカラオケ屋さんに向かった。

 お店に入って受付をしている間、てれすは不思議そうな顔をしていた。まるで小さな子供が博物館に来たような表情で、可愛い。

 指定された個室に入って、わたしはマイクとリモコンを用意しながら、わたしは心の中で思案する。

 

 まずケーキを食べてプレゼントを渡せばいいのか、それとも少し歌ってから誕生井パーティーを行えばいいのだろうか。

 悩んでいると、


「あの、ありす」


「どうかした? あ、もしかして、もう歌う曲決まってる?」


「いえ、そうではなくて……」


「?」


 てれすは首をかしげながらケーキの箱を指差す。


「さっきから気になっていたのだけど、その箱は何なのかしら?」


「あ、これね」


 箱をオープンして中身を見せる。

 ネットで美味しそうなケーキ屋さんを探していたら、偶然、駅の近くに洋菓子屋さんがあったので、そこで買ってきたものだ。

 店頭には数多くのケーキが並んでいて、どれにしようか迷ったけど、シンプルにイチゴのショートケーキにした。


「ケーキだよ。てれすの誕生日だから」


「い、いいの?」


 と、遠慮するように聞いてくるてれすだけど、その瞳はキラキラと輝いていた。てれすが犬だったら、きっと尻尾をものすごい勢いで振っていることだろう。


「もちろん。てれすのために買ってきたんだから」


「ありがとう。嬉しいわ」


 甘いものが好きなてれすだから、ケーキは喜んでもらえるとは思っていたけど、とりあえずその反応に安堵する。

 てれすを待たせては悪いので、さっそく紙のお皿とフォークにケーキを取り分ける。


「はい、どうぞ」


「いただきます」


 丁寧に両手を合わせてから、てれすはケーキを一口頬張る。

 その瞬間、てれすの目が瞠られた。言葉はなくても、その表情ですべてがわかった。


「すごく美味しい」


 てれすの声は珍しく弾んで聞こえる。

 よし、この流れでプレゼントも渡そう。喜んでくれたら、いいなぁ……。


結城天です。こんにちは。

ありすとてれすを読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

ここから夏休み編となります。


これからもよろしくお願いします。

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