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ありすとてれす  作者: 春乃
142/259

142話 何を話していたの?

「わぁ! すごい!」


 店員のお姉さんに運ばれてきたパンケーキを見て、思わず声をあげる。

 柔らかそうで色のいいパンケーキの上には黄金の輝くメープルシロップ、そしてホイップクリームが山のように盛られていた。

 

 夕飯を食べられるかどうか心配していたけど、これはちょっと怒られてでも食べたいと思ってしまう。てれすも目を輝かせていた。


「すごいわ……」


「ね! 食べようかてれす」


「ええ」


 ナイフで一口サイズに切って、口に運ぶ。もぐもぐ。


「おいしぃ~!」


 ふわふわのパンケーキ、しみこんだメープルシロップ。これが美味しくないわけがない。最高に美味しかった。一緒に注文したコーヒーを飲むと、その苦さがさらにパンケーキの甘さを引き立てる。


「てれす、どう?」


「美味しいわ、とても」


「よかったぁ。あ、てれす、クリームついてるよ?」


「どこ?」


 首をかしげるてれすの左のほっぺたに、ホイップクリームがくっついていた。

 場所を教えるため、わたしは自分のほっぺたを指で示す。


「ここ」


「ここ、かしら?」


「違うよ、反対」


「ここ?」


「うん。あ、でも、もう少し下のほう」


 てれすは一生懸命にクリームを拭こうとしているのだが、わたしの説明が下手なのか、苦戦していた。そして諦めたのか、てれすは身体をずいっと乗り出した。


「ありす、とってくれる?」


「へ?」


「ダメ、かしら……?」


「ううん、ダメじゃないよ! ……はい、もう大丈夫だよ」


「ありがとう」


 お手拭きでクリームを取ってあげると、てれすは少しだけほっぺたを赤く染めて、席に座った。

 ……ちょっと恥ずかしいけど、最初からこうしておけばよかったかもしれない。

 再びパンケーキを幸せそうに食べ始めたてれすを見て、わたしも自然と笑みが零れる。てれすはとても美味しそうに食べるので、見ているこっちも幸せな気分になれる。

 と、スマホに着信が入った。


赤川あかがわさんからだ」


「どうしたのかしら」


「えーっとね」


 MINEを起動させて、メッセージを読む。そこに書かれていたのは、


「あ! 二人とも追試に合格したって!」


「そう。よかったわ」


 てれすの目は少し安堵して、ほっとしているように見えた。


「写真も送られてきた。ほら」


 二人が合格したテスト用紙を持って笑顔でピースして映っている写真を、てれすにも見せる。


「……赤川さん、どっちもギリギリじゃない」


「まぁ、時間少なかったからね。お昼休みと図書室でしか、わたしとてれすは手伝えなかったし」


 おめでとう、と返信をして、わたしはパンケーキを食べることにした。二人も無事合格したし、今日はすごく良い気分だ。さっきよりもパンケーキが美味しく感じられる。

 だけど。


「てれす?」


「あ、ごめんなさい」


「どうかしたの?」


 先ほどまでとは変わって、てれすがパンケーキを食べる手を止めていた。何か考えているようだった。


「いえ、別に」


「言ってよ、気になっちゃう」


「……そうね、ちゃんと聞いておいたほうがいいわね」


 てれすは「よし」とうなずいて、わたしに尋ねた。


「図書室のことで思い出したのだけれど」


「図書室? うん。てれすの教え方が鬼すぎるってなっていたときだよね」


「いや、その前」


「その前?」


「ええ。……その、一年生の子と話をしていたじゃない?」


 一年生、ということは、どうやら美月みつきちゃんとのことを言っているらしい。図書室に行くの前に呼び止められて、夏休みに遊ぶことを約束した。


「うん。美月ちゃん」


「そのとき、何を話していたのかなと思って」


「そんなに大した話はしてないよ?」


「本当?」


「期末テスト2番すごいですねって」


 実際は、わたしよりも1番のてれすのほうがすごい。けど、美月ちゃんとてれすはあんまりかかわりを持っていないから、美月ちゃんにとって身近なわたしのほうがすごいって感じるのだろう。


「それだけ?」


「え? えーと」


 夏休みにどこかで遊ぶことを約束したけど、これはてれすに言うべきことなのかな? やっぱりてれすと美月ちゃんはまだ仲良くなっていないから、てれすにとっても美月ちゃんにとってもお互い余計なことは言わないほうがいい気がする。

 お互いが変に意識してるって言うか、てれすは自分から人とコミュニケーションをとるタイプじゃないし、美月ちゃんもどちらかと言うと引っ込み思案なタイプだ。

 だから、この二人が仲良くなるのは時間がかかると思う。どこかできっかけくらいは作りたいけど……。


「うん。そんな感じだよ」


「そう」


 渋々、という感じだったけど、てれすは納得してくれた。もしかすると、てれすも美月ちゃんと仲良くなりたいって、考えていたりするのかな? 

 それなら、言ってもよかったかもしれない、と考えていると、一つ思い出した。


「あ、そういえば忘れてた。今日って期末テストのお祝いだった」


「そういえば、そうだったわね」


「てれす、改めて1番おめでとう」


「……ありがとう。あ、ありすも」


「あはは、ありがと」


 てれすに嘘を吐くって言うか、隠し事みたいなことをしたので胸の辺りがなんか、モヤモヤとする。けど、仕方ない、よね……?


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