140話 ここに行かない?
次の日の放課後。
帰る支度をしていたわたしの席に、赤川さんが高井さんと一緒にやって来た。
「それじゃ、最上さん、高千穂さん。行ってくるね」
「うん、がんばって」
今日の放課後から、空き教室を使って期末テストの追試が行われる。今日のお昼休みにも復習をしたとはいえ、初日で合格するのは厳しいと思う。
けど、昨日は二人ともすごくまじめに勉強していたから、可能性はゼロじゃない。合格してほしいって、わたしもてれすも思っている。
赤川さんは「がんばる」とにこりと微笑んで、わたしの隣に目を向けた。
「高千穂さんも何か、一言ちょうだい」
「なにか?」
「うん。最上さんだけじゃなくて、高千穂さんのパワーもわたしと高井にわけるつもりで」
「え、ええ。がんばって」
言われるがままに、てれすは激励(?)の言葉を口にする。それに満足そうにうなずいていた。
てれすが他の人を励ましているところなんて、初めて見たかもしれない。珍しいシーンだなぁ、と思っていると、さらに珍しいことが。てれすが赤川さんから高井さんに視線を移す。
「高井さんも、がんばって」
まさかてれすに言われるとは思わなかったのか、高井さんは少しびっくりしていた。慌てて返事をする。
「あ、ありがと。がんばる」
「よし、そろそろ行こうか高井」
「うん」
追試が始まる時間に遅れてしまっては元も子もないので、二人は手を振って教室を出ていった。決戦に挑む二人の後ろ姿を見送って、わたしはてれすに言う。
「ね、てれす」
「なに?」
てれすは可愛らしく首をかしげる。
実は、昨日テレビを見ていた時、偶然とっても美味しそうなパンケーキのお店のコマーシャルをしていた。なんでも、有名なお店だとか。
そのお店が、この前てれすと映画館に行ったショッピングモールに出店したらしいのだ。
「このあと時間ある?」
「ええ、もちろん。なくても作るわ」
「あはは、ありがと。でも、用事があったら断ってくれていいからね?」
即答してくれたのは嬉しいけど、自分の用事をキャンセルしてまでわたしに合わせてくれなくてもいい。それなら、ちゃんと正直に無理だって言ってくれたほうが、わたしは嬉しい。また次の機会でもいいのだ。
「わかったわ。でも、今日は本当に時間あるわ」
「ほんと?」
「ええ、本当よ」
てれすはうなずいて、わたしに尋ねる。
「それで、何をするの?」
「えっとね、期末テストのとき約束したでしょ?」
「ええ。一番と二番をとったら何かお祝い的なことを、というやつね」
「そうそう。それで、昨日偶然テレビで見たんだけど」
わたしはスマホの電源を入れて、昨日のうちに調べておいた、お店の公式サイトを検索して、てれすに見せる。
「ここに行かない?」
「パンケーキ」
「うん。どうかな」
「行くわ」
即答された。
「いいの? てれすの行きたいお店とか、ない?」
「ええ。ありすと一緒に行けるなら、わたしはどこでも構わないわ。ありすの行きたいところが、わたしの行きたいところ」
力強く、はっきりとてれすは言い切る。
なんの照れもなく、自信満々にてれすが言うものだから、こっちが照れてしまう。一心同体というか、以心伝心というか、信頼してくれているみたいで嬉しいのも事実だ。
「あ、ありがと……」
「いえ」
「えっと、行く?」
「ええ」
こうして、わたしとてれすは、ショッピングモールに向かった。




