14話 初めてのテニス
競技も決まり、わたしたちテニス組はテニスコートへとやってきた。
その格好はみんなテニスウェアにラケット。まずは見た目から、というわけだ。
しかし、いざ着てみるとこのスカートが短い。たしかスコート、という名前で、すごく動きやすくはあるのだけど……。
ま、女の子しかいないのでそんなには気にならない。
さっそく練習を始めようと、わたしはてれすに声をかける。
「さっ、てれす? はじめよー?」
艶やかな長い黒髪を後ろでまとめた、スポーティーなてれすが頷く。
ポニーテールなてれす、略してポニてれすである。
「ええ、そうしましょう」
そういってわたしたちは、空いていたテニスコートの一つに入る。
てれすはネットを挟んだ向こう側、わたしの対角線上へとポニーテールをピコピコさせながら向かう。
こうしてみると、テニスのコートって意外と広いんだなぁ、って思う。
「打ってもいいー?」
「いいよー!」
準備を終えたてれすが、わたしの声でボールを打つ。
少しだけ高く上がったボールはネットを越え、わたし側のコートでワンバウンドして、ポーンとわたしのもとへやってきた。
「せいやっ!」
ブゥン! スカッ。
わたしの掛け声とは反対にボールは転々と転がる。
豪快に空振りしてしまった。
……む、難しい。
「ごめーん!」
てれすに謝りつつ、ボールを拾いにいく。
次はわたしの番だ。
ちゃんとしなくては。
と、前を見るとてれすが真ん中にあるラインくらいまで前に来ている。
「このへんくらいを狙うといいわ」
「はーい」
わたしは、手からボールを離し、ラケットを振る。
ブゥン! スカッ。
……あれ?
またしてもラケットが空を切った。
ボールは虚しく転がっている。
「もっとボールをよく見て」
「う、うん」
てれすがアドバイスをくれた。
つ、次こそは…………。
ボールをよく見る。ボールを……。
わたしの手から離れたボールをじっと見ながらラケットを振る。
スポッ。
瞬間、手から重さが消えた。
……え?
手を見る。と、そこにはさっきまではあったはずのラケットがない。
てれすの方に目をやると、てれすが青白い顔で立っている。
……なるほど、そういうことか。
「こっ、殺す気…………!?」
「いや~、ごめん」
ボールではなく、ラケットが飛んでいってしまったらしい。
「ラケットがフォンフォンいいながら、こっちに飛んできたんだけど!?」
「ごめんごめん。ボールをよく見ろって言われたから、ボールを見てたら握る力がお留守になっちゃって」
いや、ほんとに当たらなくてよかった。
わたしはもう一度ごめーん、と謝りながら飛ばしたラケットを拾いに早足でむかう。
そのラケットを拾って、さぁ続きだ! なんて思っているとわたしの肩にポン、と手がおかれる。
「ラリーはまだ早すぎたわ。……壁打ちからにしましょう」
「えー? 大丈夫だよ?」
「わたしが大丈夫じゃないからお願いします」
あのてれすから、すごく必死なものを感じる。
うーん、てれすがそこまで言うのならしかたない。
わたしたちはコートをあとにして、壁打ちをすることにした。
ちなみに、壁打ちをする前にてれすにこっぴとく叱られました。
お願いだから、ラケットを投げるのは止めてくれ。
道具は乱暴に扱っちゃダメだと。
木村先生に教えてもらわなかったのかと。
……木村先生って誰?




