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ありすとてれす  作者: 春乃
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139話 最上さんは甘すぎる

 図書室での勉強は、主にわたしが赤川さんの科学と英語を、てれすが高井さんの数学を見るという感じで進んでいった。

 それから一時間ほどが経って、帰宅している生徒の声は聞こえなくなり、代わりに部活動に励む生徒の声が聞こえてくる。その雑踏に、わたしは気になることが。


「そういえば、赤川さん」


 わたしの声で、一生懸命ノートにシャーペンを動かしていた赤川さんが顔を上げる。


「どうしたの?」


「部活って、今日から再開だよね? 行かなくていいの?」


「あぁ、うん。大丈夫。先生には言ってあるから」


「そうなんだ」


 サボっているわけでないとわかり、安心する。けれど、二人はまだ勉強を続けるみたいで、少し不安になる。あれだけ部活をやりたがっていたのだから、今日はもう切り上げて、部活に向かってもいいと思う。

 もしかすると、わたしとてれすをさそったから、中途半端になると失礼とか、そんなことを考えているのかも。


「えっと、今日は部活に行かなくていいの?」


「だって、勉強しなきゃって思いながらやっても、集中できないし。やるなら追試を終わらせてからやりたいかなって、高井と話したの」


 ね、と赤川さんが同意を求ると、高井さんもうなずいた。


「だから、明日の追試を一発で合格したいの。さすがに何日も休めないから」


 高井さんも赤川さんも本気だった。それだけ部活動に真剣に打ち込んでいるんだろう。今年のバスケ部は強いって、聞いたことがあるけど、そういうところなのかもしれない。

 ……それなら、最初から赤点をとらないようにすればいいのに。という言葉は飲み込んでおいた。


 それからも、二人はすごく集中した様子で勉強していった。

 赤川さんは化学が少し手間取ったけど、英語はすんなり理解してくれたので、かなり効率よく教えることが来出たと思う。もしかすると、明日の合格も夢ではないかもしれない。


 英語の最後の問題である、過去完了形の文章を書き終えて赤川さんがわたしに見せる。見事に正解だった。


「正解。たぶん、これで追試は大丈夫だと思う」


「だはぁ~、疲れた。ありがとね、最上さん」


「どういたしまして。赤川さん、このくらいはできるんだから、次はテストのときから勉強しなよ」


「が、がんばる……」


 さてと。

 わたしは隣のてれすと高井さんに顔を向ける。

 完全にてれすに放り投げちゃったけど、大丈夫だろうか。途中、少しもめている声が聞こえていたし、心配だ。


 だけど、わたしの心配とは裏腹に、てれすのほうも順調なようだった。


「高井さん。公式、ちゃんと覚えたわよね?」


「うん。高千穂さんのおかげでばっちり」


「そう。それなら、絶対に空白は作らないこと。部分点をもらえるのだから、それを無駄にしないように」


「はい、高千穂先生!」


 元気よく高井さんが返事をしながら敬礼する。それに苦笑しながら、わたしはてれすに話しかける。


「てれすのほうも終わった?」


「ええ。高井さん、頭はそれほど悪くなくて助かったわ」


 てれすの言葉に、赤川さんとしゃべっていた高井さんが反論する。


「ちょっと、それほどってどういうこと高千穂さん」


「そのままよ。それより、高井さんはもっと授業を真面目に聞いたほうがいいと思うわ。普通にやれば、赤点なんて取らないでしょうに」


「それ、高千穂さんが言う? ずっと寝てるくせに」


「わたしは問題ないもの」


 てれすがさらりと言ってのける。高井さんは「ぐぬぬ」と歯ぎしりしていた。


「くっ、羨ましい……」


 そして、高井さんはわたしに助けを求めるようにして言った。


「最上さん。最上さんは、高千穂さんもまじめに授業受けたほうがいいと思うよね? クラス委員として」


「うーん。でも、てれすは前に比べると真面目に受けてると思うよ?」


 てれすだから贔屓しているとかではなく、本当にそう思う。

 たしかに寝ていることはあるけれど、前のようにサボることはない。サボっちゃったら一緒にいられないけど、寝ているのなら隣にてれすはいるから、わたしは充分だ。それに、てれすは寝ていてもテストで結果を出しているから、これ以上はわたしがどうこう言うところじゃないと思う。

 わたしの言葉を聞いて、てれすは勝ち誇った顔をしていた。


「そういうことよ、高井さん」


「最上さんは高千穂さんに甘すぎるよぉ!」


「そうかなぁ」


「自覚ないの!?」


 高井さんがとても驚いていた。なんなら、赤川さんも。


「赤川も、そう思うよね?」


「まぁ、仲いいから、ちょっとくらいは仕方ないよ」


「そっかぁ、たしかにそれなら仕方ないかぁ」


 二人が納得してくれたところで、時刻は六時になろうとしていた。

 もうじき図書室も施錠される時間なので、わたしたちは図書室から出る。玄関に向かう途中、赤川さんが改めてお礼を言った。


「いや~、最上さん、高千穂さん、今日はありがとね」


「どういたしまして。明日がんばってね」


「まかせて! 合格してみせるよ!」


 力強くうなずいた二人はちょっと頼もしく見えた。

 どちらか片方だけ合格って言うのは、ちょっと気まずくなるから、どうか二人とも合格しますように、と心の中で念じておいた。


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