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ありすとてれす  作者: 春乃
138/259

138話 図書室と美月ちゃん

 

 放課後になると、すぐにわたしの席に赤川あかがわさんがやって来た。お昼休みだけで二人の勉強が十分にできるはずもなく、放課後にも行おうという約束をしたので、やる気があるのは教える側としてすごく嬉しい。

 しかし、赤川さんに手を引っ張られている高井たかいさんは転びそうになっていた。


最上もがみさん! 早く行こう!」


「ごめん、ちょっと待って……え?」


 帰る準備をしていた手を止める。

 早く行こうって、どこかに行くのだろうか。わたしはてっきり、お昼休みと同じくこの教室でやるものだと思っていた。


「ここでやるんじゃないの?」


「図書室に行こうって、高井と話したの。ダメかな?」


「ダメじゃないけど、教室でもいいじゃない?」


「絶対、図書室が良いって!」


「そ、そう?」


 赤川さんは強く首肯した。

 どうしてかはわからないけど、赤川さんから図書室で勉強したいというものすごい熱意が伝わって来る。

 二人が集中できるなら、わたしとしては場所はどこでもいい。二人で話して決めたのなら、そっちのほうがいいのかもしれない。


「わかった。てれすも、それでいい?」


「ええ。わたしはどこでも」


 てれすもうなずいてくれたので、放課後の勉強は図書室でやることになった。期末テストの期間はもう終わっているし、たぶん人はいないだろう。


「それじゃ、図書室でやろっか」


「うん。ありがと」


「どうして、そんなに図書室で勉強したかったの?」


 気になっていたことを尋ねる。


「えっとね、わたしも高井も図書室で勉強したことなくて。まぁ、図書室だけじゃなくてわたしと高井はあんまり勉強しないんだけど、図書室で勉強って、なんかぽいなぁって」


「ぽい?」


「勉強といえば図書室! みたいなところあるじゃん? だから、形から入るのもありかなって」


「なるほど……?」


 高井さんのほうを見ると、高井さんも「うんうん」と同意していた。てれすと見ると、可愛らしく首をかしげている。

 とりあえず、二人がちゃんと勉強してくれるなら問題ない。部活のためって、目的があるから、きっと二人はすごく頑張ってくれると思う。


「それじゃあ、行こうか。時間がもったいないし」


 わたしたちは4人で教室を出て、図書室を目指した。

 その途中。

 

「あ、最上先輩」


美月みつきちゃん」


「どこか行くんですか?」


 美月ちゃんが、私の他の3人を見て尋ねる。


「うん。ちょっと図書室にね」


「あ、そうなんですね……」


 なんだか、美月ちゃんはわたしの後ろを気にしている。


「もしかして、わたしの何か用事があった?」


「あんまりすごい用事ってわけじゃないですけど……」


「そっか」


 他の人がいると話しにくい内容なのかな?

 たしかに、勉強のこととか、もっとプライベートなことだったら、この状況だとちょっと話しにくいかもしれない。


 美月ちゃんの話の内容を聞かずに図書室に行くともやもやするだろうし、ここは先に行ってもらうとしよう。わたしはてれすたちに振り返って言う。


「ごめん。先に行っててもらえる?」


「おっけー。それじゃ行こうかみんな」


 赤川さんに促されて、高井さんは進み始める。しかし、てれすは足を止めたままだ。


「ありす」


「ごめんね、てれす。赤川さんと高井さんをよろしくね」


「……ええ」


 渋々、という感じだったけど、てれすは納得してくれた。みんなが先に図書室に向かうと、美月ちゃんが口を開く。


「あの。そういえば、最上先輩、期末テスト2番だったんですよね。さすがです」


「あはは、ありがと。でも、てれすが1番だから、てれすのほうがすごいよ」


「そう、ですか」


「うん。すごいよね。さすがてれすだよ」


 今回は約束もあったのに、いつも通り一番を取る。さすがてれすだ。さすてれ。

 お祝い的なことも、楽しみだ。


「それで美月ちゃん。用事って?」


「あ、そうでした。その、最上先輩って、夏休み時間ありますか?」


「夏休み? 日によると思うけど、大丈夫だよ」


「一緒に、なにかこう、したいんです。日頃のお礼と言うか、なんというか……」


「お礼なんて、そんなのいいよ。普通に遊ぼう?」


「じゃあ、それでお願いします」


「うん。それじゃ、日程とかはMINEで決める?」


「はい」


「おっけー。それじゃ、わたしはそろそろ行かないと」


 てれすがいるから、勉強は何とかなっていると思うけど、あんまり任せるわけにもいかない。わたしも力にならなくては。


「あ、そうですよね。ごめんなさい」


「謝らなくていいよ。それじゃあね」


「はい。ありがとうございます」


 美月ちゃんに手を振って別れて、わたしは急ぎ足で図書室に向かった。


「ごめん! どういう感じ――って、え?」


 図書室の中には、てれすと高井さん、赤川さんしかいなかった。

 それはいいんだけど、その3人のうち、てれす以外の2人がぐったりとしていた。阿鼻叫喚と言うか、地獄絵図というか。


「てれす、どうしたの?」


「わからないわ」


 てれすは「どうしてかしら」と目の前の惨劇の原因がよくわかっていないみたいだった。すると、赤川さんが声を絞り出して言う。


高千穂たかちほさん、スパルタすぎるよぉ……」


「まさに、鬼……」


 高井さんも続ける。


「えっと、わたしもがんばるから、がんばろう?」


 何が起きたのか。今となっては知ることはできないけど、追試のために2人は起き上がって、勉強が再開された。


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