137話 最上先生と高千穂先生
「高千穂さんって、お昼ご飯、購買なんだね」
「ええ」
「いっつもそうなの?」
「たまに、コンビニのときもあるけど」
「そうなんだぁ」
と、てれすと赤川さんがおしゃべりしている通り、今日のお昼ご飯は高井さんと赤川さんと一緒に食べていた。ご飯を食べ終わってから、さっそく追試対策をすることになったのだ。
こんなに大勢でご飯を食べるのは、てれすと二人で食べるようになってからはなかったぁ。それに、てれすが高井さんや赤川さんと普通に会話をしているのを見ると、この一学期の間にすごく良い変化があったのだと、改めて思う。
そんな感じで楽しく会話して、お昼ご飯を食べ終えた。
「それじゃあ、追試に向けてやろうか」
わたしがそう言うと、高井さんと赤川さんが強くうなずいた。それだけ部活をしたい、そして顧問の先生に怒られたくないということだろう。
さっそく始めたいところだけど、まずは高井さんと赤川さんのテストの結果がどうだったかを知らなければ。赤点なのはわかっているけど、どういう部分が苦手なのか分かれば、効率よく勉強することができる。
「二人のテスト見せてもらってもいい?」
「う、うん」
二人は緊張した面持ちで、今朝のホームルームで返却されたばかりのテスト用紙を渡した。それぞれの正面に座っている人に渡すため、わたしが赤川さんから、てれすが高井さんから答案用紙を受け取る。
「ええっと……」
赤川さんは赤点が2教科あると言っていたから、ある程度の覚悟をしていたけど、想像していたほどではなかった。
もちろん、先生の丸よりもバツのほうが多いけど、これならどうにかなるかもしれない。
「英語が24点で、化学が28点か」
「い、言わないでよ……」
思わず口から零れてしまったけど、デリカシーがなかったと反省する。唇を尖らせている赤川さんに「ごめん」と謝って、次は高井さんのテストを見ることにした。
だけど、高井さんのテストを先に見ていたてれすの様子が少しおかしかった。なんというか、絶句しているような。
「てれす?」
「あ、ごめんなさい」
「ううん。どうしたの?」
「えっと……」
てれすは気を遣うように高井さんのほうをちらっと一瞥してから、声を潜めてわたしに言う。
「その、こんな点数を見たことがなくて……こんなの存在するのね」
「え?」
いったい、高井さんは何点だったんだろう……。
てれすの持っているテストを覗き込もうとしたけど、それよりも早く高井さんが抗議の声をあげた。
「ちょっと高千穂さん、聞こえてるけど!? 失礼じゃない!?」
「……ごめんなさい」
「そんな真面目な顔で謝らないで!?」
「その、本当にごめんなさい」
「うぅ……」
顔を手で覆った高井さんに苦笑いしつつ、てれすにテストを見せてもらう。
「てれす、見せて」
「ええ」
「どれどれ……え」
てれすの絶句していた意味、そして高井さんとのやり取りの意味が分かった。高井さんの答案用紙は真っ赤に染まっていて、正解しているところを探すほうが難しそうだった。
「ろ、6点かぁ……」
これは、なんとかできるのだろうか。赤川さんの時と違って、自信がまったくない。どうしたものかと頭を悩ませていると、心配そうな弱々しい声で高井さんが尋ねてくる。涙目だった。
「最上さん、わたし、合格できるかな」
「わ、わかんない」
「うぅ……」
「がんばろうね! 高井!」
高井さんを元気付けるために赤川さんが言うけど、高井さんは机に突っ伏して返事をしない。そんな高井さんになんて声をかけようかと思っていると、意外にもてれすが口を開いた。
「やるしかないわ。わたしもできることはやるから」
「高千穂さん……」
「頑張りましょう?」
「うん」
てれすの言葉で、高千穂さんはなんとか立ち直ってくれた。
とりあえず安心。高井さんのことは、てれすに任せてもいいのかもしれない。
「それじゃあ、よろしくお願いします。最上先生、高千穂先生」
赤川さんが言って、二人の追試を一発で合格するための道がスタートした。




