136話 赤点
心配なので、もう一度貼りだされている紙を確認する。
何回見ても、一番がてれすで、二番がわたし。どうやら間違いないらしい。先生が間違えていたら、どうしようかと思っちゃうけど、そんなことはないはずだと信じたい。
無事にてれすとの約束を守れたことに安堵しながら、わたしたちは教室の中に入った。
「ほんとよかったぁ……」
ため息を吐きながら、席に座る。隣に腰を下ろしたてれすが苦笑いしていた。
「本当に心配だったのね」
「そりゃそうだよ。てれすはきっと大丈夫って思ってたけど、わたしがどうなるかなんて、わかんなかったし」
「わたしは、ありすなら絶対に大丈夫だと思っていたわ」
「ほんと?」
「ええ、もちろん。嘘なんて吐かないわ」
「そうだよね、ありがと」
わたしがてれすは大丈夫だと信じていたように、てれすもわたしのことを信じてくれていたらしい。まぁ、わたしはてれすを信じるとかじゃなくて、100%一番を取るだろうなぁって確信だったけど。
ともかく、約束を守れて、てれすの信用も裏切ることがなくてよかった。お祝い的なことをやろうって、話をしたけど、どこで何をするのか、調べておかないと。
てれすの意見も聞こうと考えていると、横から声をかけられた。
「最上さんと高千穂さん、またワンツーって、ほんとすごいね」
「あ、高井さん。赤川さん」
先日お誕生日を迎えられた高井さんと、赤川さんが「おはよう」と笑顔をつくる。順位表は掲示板に張り出されるわけだから、誰が知っていても不思議じゃないけど、やっぱり自分のことを言われるのはなんだか恥ずかしい。
「あ、ありがとう」
お礼を言うと、今度は赤川さんが興奮した様子で発する。
「最上さんと高千穂さんのワンツーって、2年生になってすぐあった実力テストも入れたら、三回連続だよ」
「そういえば、そっか。いいなぁ、二人は頭良くて」
「ねぇ~。ちょっとわけてほしいかも、ね、高井」
そう言って、ため息をつく二人。どうやら訳アリのご様子だ。てれすはピンと来ていないのか、不思議そうに首をかしげている。
なんとなく察することができたので、聞いていいものか悩んだけど、聞いてみることにした。
「えっと、二人はどうだったの?」
すると、赤川さんは右手でピースをつくった。
「わたしは赤点2つ」
「赤川はちゃんと勉強しないから」
「なにさ、高井だって、数学赤点じゃん」
「ちょっと、言わないでよ」
ばつの悪い顔になる高井さん。
ここはなんとか、わたしがフォローしなくては。
「まぁ、でもほら。二人は部活もあったから、いろいろ大変でしょ?」
「そうなんだよ。これじゃ、顧問に怒られちゃうなぁ」
「高井はまだいいじゃん。わたしなんて、2つもあるからね!?」
二人が言っているのは、きっと追試のことだろう。
中間テストや期末テストで赤点をとってしまうと、次の日の放課後から追試になってしまう。詳しくは知らないけど、50点を超えるまで終わらないらしい。
テスト期間中は部活動が中止になっていて、やっと今日から再開だと言うのに追試で部活に遅れてしまうなんて、そりゃ顧問の先生に怒られることを心配するだろう。
明らかに重たい空気を何とかしなくては。とはいっても、追試をなくすことなんてできないし、替え玉なんてしてしまったら、わたしも怒られてしまう。
二人が一発で追試を合格できれば、部活に遅れるのは明日の放課後だけになるけど……。
「あ、そうだ」
「どうしたの、最上さん」
「よかったら、追試の勉強をわたしとてれすも手伝おうか?」
わたしが提案すると、高井さんと赤川さんは顔を見合わせた。そして、すぐにぱあぁっと顔を輝かせた。
「いいの!?」
「う、うん。ね、てれす?」
「ええ、ありすがそう言うのなら」
てれすがうなずいたのを見て、高井さんと赤川さんはハイタッチを交わした。ものすごく喜んでくれてるけど、追試がなくなったわけじゃないよ……?
もちろん、喜んでくれるのはすごく嬉しいけど。
「やった、マジ助かる! 赤川、勝ったなこれは!」
「そうだね高井!」
今日のお昼から始めることにしようと決めていると、ちょうどチャイムが鳴って先生がやって来た。
「はーい、みんな席についてね」
先生の声で、みんなが自分の席に戻って行く。
「それじゃあ、よろしく最上さん、高千穂さん」
「うん」
手を振って、高井さんと赤川さんも、自分の机へと戻って行った。




