133話 てれすの誕生日って
日曜日のお泊り会を終えて月曜日。
期末テストを乗り越えれば、もうすぐ夏休みだなぁ、なんてことを考えながら学校に行って教室に着くと、その一角がなんだか盛り上がっていた。
どうしたんだろ、と首を捻りながら向かうと、中心にいるのは赤川さんと高井さんのようだった。
「赤川さん、どうしたの?」
「あ、最上さん!」
高井さんを囲むようにして話をしていた数人の生徒、もちろん話しかけた赤川さんもわたしに顔を向ける。
「あのね、今日高井の誕生日なんだ」
「え! そんなの!?」
ちらりと席に座っている高井さんを見る。
高井さんはこくりと小さくうなずいて、恥ずかしそうに目を逸らした。
なるほど。そういうことで、高井さんと赤川さんたちが盛り上がっていたらしい。高井さんには体育祭のときとか、てれすと喧嘩しちゃってヒヤヒヤしたけど、ちゃんと仲直りもして、今ではすごくお世話になっている。
すでに今日、何度も言われて飽きちゃってるかもしれないけど、ちゃんと伝えておこう。
「高井さん、お誕生日おめでとう」
「ありがと、最上さん」
「あ、でも、どうしよう。わたし何も持ってきてない……」
知らなかったとはいえ、せっかくの誕生日なのに、わたしには何もプレゼントできそうなものがない。
「いいよ最上さん。気持ちだけで、すごく嬉しいし」
「そ、そうかなぁ。でも」
何かないか。と思案を巡らせていると、わたしの制服の裾がちょいちょいと引っ張られた。
「ありす、どうしたの?」
「あ、てれす。今日ね、高井さんがお誕生日なんだって」
来る途中に、コンビニで買い物をしてきたのだろう。てれすの手にはコンビニのレジ袋が握られていた。
「そう」
「でもね、わたし知らなかったから、何も準備してなくて」
わたしが自嘲すると、レジ袋を持っていたてれすは再び「そう」とうなずいて、袋をゴソゴソ探り始めた。
そして、みんなが大好きなチョコレートのお菓子であるポリッツの赤い箱を取り出した。
「はい。誕生日おめでとう」
「あ、ありがと、高千穂さん」
てれすからの祝福が意外だったのか、高井さんは少し驚いたような表情を浮かべつつも、てれすからのお菓子を受け取った。
「それから、これはありすの分」
てれすはもう一回袋に手を入れて、同じ赤色の箱を高井さんに渡した。
「はい」
「え、いいの高千穂さん。こんなにもらっちゃって」
「ええ。だって、それはありすからだから」
「わかった。ありがとう」
「いえ」
こうして、わたしはてれすに助けてもらった形になって、このままショートホームルームまでおしゃべりに興じた。
チャイムが鳴って先生が来ると、それぞれの席に戻る。
「てれす、さっきはありがとね」
「いえ、いいのよ」
「でも、てれすの食べる分がなくなっちゃったんじゃない?」
「大丈夫。もう1箱あるから」
ほら、とてれすは、赤色の箱をわたしに見せてくれた。
同じお菓子を3つもどうして買ったのかなぁ、とか、前にポリッツを食べてた時(正確にはわたしは食べてないけど)先生に怒られたなぁとか思い出したけど、その言葉たちは飲み込んだ。
「そ、そういえば、てれすの誕生日っていつなの?」
「7月24日よ」
「ほ、ほんと!?」
「ええ。嘘はつかないわよ」
「あはは、そうだよね。でもそっか、夏休みなんだね」
「……そうね」
「ちょっと意外かも。てれすのイメージ的に、秋とか冬かなって思ってた」
夏っていうと、暑い感じだからてれすっぽい感じはない。クールビューティーなてれすは、冬生まれってほうがしっくりくる。肌とか白いし。
あ、でも。てれすは顔を赤くしたりしてることもあるから、夏っぽいといえば、夏っぽいのかも……?
ともかく、これは良い情報をゲットした。
夏休みの予定に入れなくては。
「お誕生日会、やろうね」
「いいわよ、別に」
「やろうよ~」
「ま、まぁ、ありすが言うのなら」
「やった」
てれすのお誕生日まで、約一か月。今は期末テストを頑張らなきゃだから、あまり考えられないけど、終わったらいっぱい考えなきゃ!
プレゼントも選びに行かないとね。
結城天です。こんにちは。
ありすとてれすを読んでくださった皆様。本当にありがとうございます!
今回のお話から初夏編です。
これからも、どうぞよろしくお願いします!




