132話 お泊り会を終えて
そして夕方。てれすがお家に帰る時間になった。
お泊りセットや勉強道具を片付けて終わると、てれすはカバンを肩にかけて立ち上がった。
「てれす、忘れ物はない?」
「ええ。おそらく」
うなずきながらも、てれすはもう一度わたしの部屋を見渡して、忘れ物がないかどうかを確認する。
「なさそうね」
「まぁ、あってたとしても、いつでも渡せられるし、大丈夫だよね」
「そうね。もし何か忘れていたら、明日学校に持ってきてもらってもいいかしら」
「おっけー」
わたしが首肯すると、てれすは「よいしょ」とカバンを肩に掛け直した。
「そろそろ帰るわね」
「……うん」
今回のお泊り会ですべきことは、もうなにもない。引き留める理由もない。ちょっと寂しいけど、明日は普通に学校があるし、てれすの帰る時間が遅くなってしまうのは迷惑だ。
わたしの部屋を出ていったてれすの後に続いて、わたしもお見送りのために階段を下りる。
玄関へ向かい途中、てれすがリビングにいるお母さんに、
「ありすのお母さん。とてもお世話になりました。ありがとうございました」
と言うと、お母さんがリビングから出てきた。
「いいえ、またいつでも来てね」
「はい。本当にありがとうございました」
ペコリとてれすは頭を下げて、靴を履く。
トントンとつま先をして、てれすがわたしに振り返って言った。
「ありす、ありがとう。楽しかったわ」
「ううん。わたしのほうこそ。また明日ね」
「ええ」
わたしが手を振ると、てれすも小さく手を振り返して、お家に帰って行った。
ガチャリと寂しい音を立てて閉まった扉を見つめていると、お母さんがわたしに言う。
「ありす。晩ご飯もうすぐだから」
「うん」
返事をすると、お母さんも玄関からいなくなって、すごく静かで寂しく感じてしまう。
てれすが忘れ物に気づいて、もう一回顔を見せてくれないかな、なんて思うけど、てれすのことだから、忘れ物なんてしていないだろう。あったら明日渡して、と言ってもあれだけ確認していればきっとない。
短く息を吐いて、わたしは晩ご飯までの時間、自分の部屋に戻って過ごすことにする。しかし、綺麗に畳まれたお客さん用のお布団を見ると、さっきよりも大きな寂しさが込み上げてきた。
ついさっきまでてれすがいたから、二日間ずっとてれすと一緒だったから、部屋にてれすがいないのが、すごく寂しかった。
「てれす……」
でも、また明日会える。うん。大丈夫。
「よしっ」と気合を入れて、わたしはお布団を隣の部屋に戻そうとしたとき。
「……あれ?」
机の下の端っこ、ちょうど布団の下あたりに、何やら落ちているのが目に入った。
「なんだろ」
手に取ってみると、可愛らしい水色のシャーペンだった。でも、わたしのもではない。とはいえ、このシャーペンには見覚えがある。いつもてれすが使っているものだ。
布団の陰になっていたとはいえ、あんなに忘れ物がないか確認していたのに、てれすが忘れ物をしていたことに思わず笑みが零れる。
「ふふっ、てれすったら。明日渡してあげなくちゃ」
そう思うと、少しだけ寂しさが薄れて、明日てれすと会うのが楽しみになった。
結城天です。こんにちは。
読んでくださった皆様。本当にありがとうございます。
今回のお話でお泊り会編はおしまいとなります。
次は初夏編です。
これからもありすとてれすをよろしくお願いします!




