131話 夏休みも
お母さんにお昼ご飯に呼ばれ、わたしとてれすはダイニングへ移動した。時間はお昼にするには少し遅いけど、朝ごはんが遅かったからしかたない。
テーブルには、トマトとツナの美味しそうな和風パスタが並んでいた。
「美味しそう!」
「さ、てれすちゃんも座って? 食べましょう」
「ありがとうございます」
わたしがイスに腰を下ろすと、横にてれす、前にお母さんが座ってランチが始まった。
最近、暑くなってきたからか、あっさりとした和風パスタはすごく美味しい。
「てれすちゃん、美味しい?」
「はい、すごく」
「よかった。それはそうと」
お母さんはお茶を一口飲んで、話を続ける。
「いつくらいに帰るか決めてる? あ、帰ってほしいとかってわけじゃないのよ? てれすちゃんなら、何日でもいてほしいくらいだから」
「あ、えっと……」
てれすは困ったように、言葉を詰まらせた。そして、助けを求めるように、わたしに視線を向けた。
とはいっても、わたしも困惑してしまう。
そうだよね。明日は学校だし、てれすは家に帰らなくちゃならない。当たり前なことのはずなのに、忘れてしまっていた。
「夕方には帰らないとね」
「……そうね」
てれすのお母さんが待っているかはわからないけど、明日のために遅くまでいてもらうのは、できない。
あまり眠れてないと思うし、テスト本番が近いのに体調を崩しちゃったら、せっかくの勉強が元も子もなくなってしまう。
今日、てれすが帰ってしまっても、また明日学校で会える。それなのに、帰ってしまうと思うと寂しくなってしまう。
てれすがいつも隣にいてくれるのは、当たり前の光景ではないのだ。
そんなことを考えていたから、ぼーっとしていた。てれすが心配そうに顔を覗き込んできた。
「……ありす?」
「へ?」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
かぶりを振って、否定する。言及されて正直に答えるは恥ずかしいので、話を変えることにした。
「そういえば、期末テストもそうだけど、夏休みもすぐだよね」
「あぁ、そういえばそうね」
あと一か月もしないうちに、一学期が終わる。
4月にてれすと会ってから、もうそんなに日が経ったらしい。一年生のときよりも、時間の流れを早く感じた。
「てれすは、何か予定とかあるの?」
「いえ、今のところはなにも。たぶん、何もないと思うわ」
「夏休みも、お母さん忙しいの?」
「ええ。休みをとれたとしても、わたしに使うんじゃなくて、ゆっくり休んでほしいわ」
「てれす……」
なんていい子だ。さすがてれす。さすてれだ。
「てれす」
「なにかしら?」
「夏休みも、いっぱい遊ぼうね」
「……ええ。ありがとう」
「お礼なんていいよ。ね、お母さんも、てれすが来てくれたら嬉しいよね?」
お母さんに尋ねると、すぐにうなずいた。
「もちろんよ。でも、一番嬉しいのはありすでしょう?」
「あはは、バレてた?」
「当たり前じゃない。てれすちゃん?」
「……はい」
「また、いつでも来ていいからね」
「! あの、本当にいいんですか?」
「もちろん、どうして?」
お母さんが首をかしげると、てれすは遠慮がちに、小さな声で言葉を発した。
「迷惑かけてばかりというか、お世話になってばっかりな気がするので……」
「そんなの、てれすちゃんが全然気にすることじゃないわよ。ありすと仲良くしてくれているんだから」
お母さんの言葉に、わたしは首肯する。てれすと友達になってから、すごく楽しい日々を送らせてもらっている。
球技大会も体育祭も、今日もお泊り会も、去年のわたしなら経験できなかったことだ。
「そうだよ。いつもありがとね、てれす」
「いえ、わたしのほうこそ……」
「夏休みも遊べる?」
「ええ、もちろんよ」
「やった」
小さくガッツポーズをつくると、てれすが「でも」と、注意するようにわたしに言う。
「まずは期末テストよ」
「そうだね」
てれすと期末テストで1番2番をとる。
その目標のためにがんばるぞ!




