130話 てれす先生
部屋に戻ってきたわたしとてれすは、お昼ご飯までの時間、何をしようかと悩んでいた。勉強をするというのは決定しているんだけど、内容をどうするのか。
復習は何回やってもいいと思うけど、できるだけ効率よく勉強したい。特に、今回のテストは、二人で一番と二番をとろうね。という約束をしているので、今まで以上にがんばらないといけない。
お昼ご飯までの時間にできること。
それを少しの間考えて、わたしはてれすに提案する。
「てれす、問題の出し合いっこでもしない?」
「そうね。いいと思うわ」
前回、中間テストのときに、てれすと勉強した後にもやったけど、問題を想定して出題するから、テストっぽいし、出すほうも答えるほうも復習になる。
「それじゃあ、まずは数学からでいい?」
「ええ。わたしはなんでも」
「おっけー」
さすがに数学を口頭でやるわけにはいかないので、わたしはルーズリーフを取り出して、てれすに渡す。
「これに出そうな問題を書いて、交換しよ?」
「なるほど、わかったわ。小テスト、みたいなものね」
「うん、そんな感じ」
てれすの言葉を首肯して、わたしも自分の分のルーズリーフに問題を書いていく。問題が完成したら、一応、別の紙に答えを計算して、わたしの回答を出しておく。
「てれす、できた?」
「もうすこし、待ってくれる?」
「うん」
それから少しして、てれすの問題も完成した。
ルーズリーフを交換して問題を解き始める。てれす先生の作成した問題。それだけ聞くとかなり難しそうだけど……。
「あれ? そうでもないかも」
難問、というよりも、いかにもテストっぽい感じだった。
この問題がテスト本番で出題されたとしても、疑わないくらいの感じだ。小中高と、これまで11年間テストを受けてきた経験から、テストっぽいなぁと思った。
意外と、と言っちゃうと失礼かもしれないけど、てれすは先生とか向いているのかもしれない。
見ての通り頭は良いし、色々知っているし、美人だし、人気者の先生になること間違いなしだ。
「ありす、どう? ちゃんと問題になっているかしら」
「うん。問題になっているどころか、本物のテストっぽい」
「それなら、よかったわ」
安堵の息を吐いて、てれすはわたし作成の問題に戻った。
そして少しして。
「よし、たぶんこれで合ってるはず」
見直しをしっかりとしてから、わたしはシャーペンを机に置いた。同じくらいのタイミングで、てれすも解き終わったらしい。わたしのほうを見ていた。
「てれす、できた?」
「ええ」
「それじゃ、交換して採点しようか」
あ、なんだかすごく先生っぽい。
そんなことを思いつつ、てれすと交換して、てれすの回答を見る。途中式、それから答えもわたしとまったく同じだった。
「てれす、大正解!」
「よかったわ。ありすも、正解よ。さすがね」
「あはは、ありがと」
それから、数学だけでなく、他の教科もお互いで問題を作って解き合うことになって、四回目くらいの交換をしたとき。てれすの作った国語の問題を解いているときに、ふと思い出した。
「あ、そういえば、てれす」
「なにかしら」
「年号を覚えるのに、語呂合わせみたいなのあるじゃん?」
「鳴くよウグイス、平安京。みたいなもの?」
「そう、それ」
今、わたしが問いているのは国語の問題なので、まったく関係ないけど、思い出したので話す。
「前にテレビで見てたら、面白いのがあったの」
「へぇ、どんな感じなの?」
「えっとね。承久の乱なんだけど」
「承久の乱。鎌倉時代に、後鳥羽上皇が幕府を倒すために起こした戦いよね」
「うん。それは1221年なんだけどね、てれす、わかる?」
尋ねると、てれすは一瞬だけ考えて、すぐに降参した。首を横に振る。
「わからないわ」
「1221年。ワンツーツーワン、承久の乱! らしいよ」
「……え?」
「だから、ワンツーツーワン、承久の乱」
「それ、語呂合わせなのかしら」
もっともなことを、てれすは言う。
「うーん。でも、テレビで言ってて、すごく覚えやすいなぁって思った」
「たしかに、インパクトはあるわね」
「まぁ、年号と承久の乱! ってことだけしか覚えられないから、中身はあんまり覚えられないけどね……」
「……そうね」
てれすと苦笑いしながら、問題に戻る。
そうして何問くらい、てれすと出し合いっこをしたころか、お母さんが一階から「ご飯よー」と呼んでくれた。
「てれす、いこ?」
「ええ」
頭を使って、いい感じにお腹も空いてきている。
ダイニングに向かうため、階段を下りている途中、とりあえず、1221年に承久の乱が起こったというのは、一生忘れないだろうな、と思った。




