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ありすとてれす  作者: 春乃
129/259

129話 帰宅と午後から

 スーパーでのおつかいを終えて、わたしとてれすはわたしのお家に向かっていた。

 

 時間はたぶん1時間とかそこら。2時間は経過していないだろう。

 お宅によっては、もうお昼ご飯を食べていてもいい時間帯だけど、朝ごはんを食べたのが遅かったこともあって、あまりお腹は空いていない。

 ということは、あと1時間2時間は勉強でもすることになると思う。


 今日のこのあとの予定を頭の中で考えていると、お家が見えてくる。


「てれす、ごめんね。重たかったでしょ?」


「いえ、大丈夫よ」


「ありがとね」


 てれすに感謝しつつ、わたしは玄関の前に立つと扉を開けた。

 レディーファースト……はわたしもレディだからおかしいかもしれないので、てれすファーストである。

「どうぞ」とてれすを促して、先に入ったてれすに続いて、わたしも家の中に入る。


「ただいまー」


 そして靴を脱ごうとしていると、てれすの困ったような表情が目に入った。

 お母さんから頼まれたものは全部買って来ているので、何かを忘れたということはない。だとしたら、どうしたのだろうか。


「てれす?」


「あ、いえ。その、わたしはどう言えばいいのかな、と思って」


「なにを?」


「今、ありすはただいまって、言ったじゃない?」


「うん。……あぁ、そういうこと」


 つまり、てれすは「ただいま」と言うべきなのか「お邪魔します」と言うべきなのか迷ってる、というわけだ。

 たしかに、自分の家ではないところに「ただいま」というのはあれかもしれない。しかし、お泊りしている家に、もう一度「お邪魔します」と言うのは他人行儀すぎる気もする。


 少しの間、わたしは考えて、すぐに答えを出した。


「ただいま、でいいと思うよ」


「そ、そう?」


「うん。だって、今はうちが、てれすの帰って来る場所だもん」


「……そうね。ありすの言う通りね」


 てれすは納得の表情になると、少しだけ口元を緩めて言った。


「た、ただいま」


「おかえり、てれす」


「なんだか、不思議な感じだわ」


「そうだよね。自分の家じゃない家に言うことなんて、あんまりないもんね」


「ただいま」とか「おかえり」って、基本的に家族にしか言わない気がするから、それも余計に不思議さを醸し出しているのだろう。

 さっきちょっとだけ妄想した、てれすと二人暮らしを始めたら、それもなくなるのかもしれないけど。


「ええ。でも、それだけじゃないの」


「え?」


「わたしのうちって、帰っても誰もいないことがほとんどだから、今のありすみたいに返事をしてくれるのが、なんだか不思議で」


「てれす……」


 そうだった。

 てれすのお父さんについては何も知らないけど、てえすのお母さんはものすごく忙しい人なのだ。家にいないということは、てれすが今言った通り、「ただいま」の返事が返って来るはずもない。


「あ、ごめんなさい。別に、そんな顔をしてほしいとか、気を遣ってほしいとかではないから」


「う、うん」


 てれすは、ちゃんと理解している。

 しかたのないことだと割り切っているし、お母さんのことを悪くも言わない。

 でも、やっぱり寂しいと思う。わたしだったら、そう思う。


「それじゃあ、牛乳とか、冷蔵庫に入れそうか」


「そうね」


 買ってきたものを再び手に持って、キッチンに向かう。

 その途中、リビングでテレビにぼやいていたお母さんが、わたしたちに振り返った。

 

「おかえりなさい。ありがとね。暑かったでしょう?」


「うん。なかなかね」


「てれすちゃんも、ありがとうね」


「いえ」


 短く答えたてれす。すると、お母さんの視線が、てれすの持っているレジ袋に移動したのがわかった。


「ありす」


「なぁに?」


「もしかして、てれすちゃんに荷物持たせてたの?」


「え! いや、持たせてたってわけじゃ」


 しかし、誰がどう見ても、わたしよりもてれすの持っている袋のほうが多いし、重たそうだ。お母さんにそう思われてもしかたないかも、と思っていると、てれすが助け舟を出してくれた。


「あの、違うんです」


「そうなの?」


「はい。わたしが持つって」


「でも、ありすにも持たせていいのよ?」


「いえ、ありす……さんには色々助けてもらっているので、このくらいは役に立ち立って思って」


 てれすの言葉に嘘がないと、お母さんに伝わったのだろう。

 ちょっと困ったように笑みを浮かべた。


「そう。それなら、いいんだけど……」


「はい。ありすがいなかったら、わたしはいなかったので」


「まぁ、二人ともが納得してるのなら、わたしが口を挟むことじゃないわね。あ、それはそこに置いておいていいわよ。お母さんがやっておくから」


 そうお母さんが言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。

 てれすと一緒に、わたしの部屋に戻ることにする。


「あ、二人とも」


「どうしたの?」


「お昼、どうする? 外に行く? それとも、うちで食べる?」


「うちで食べるつもりだけど。てれすは?」


「ありすがそう言うのなら」


 てれすも首肯したのを見て、お母さんは数回うなずいた。


「じゃあ、あと二時間くらいしたら、呼ぶわね」


「はーい」


 お昼ご飯までは、勉強をすることにしよう。昨日のまとめとか、やることはいくらでもある。

 お母さんに返事をして、わたしはてれすを引っ張るように、階段を上がっていった。


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