128話 家族っぽい
てれすと一緒にスーパーにやって来て、わたしは入り口で買い物かごを手に取る。
「さ、ちゃちゃっと買っちゃおうか」
「ええ」
てれすはうなずいて、シームレスにわたしの手から買い物かごをとった。
「わたしが持つわ」
「いいの? って、こんな会話を、前にもした気がする」
あれはたしか、この前に来た時。焼肉パーティーをしたときだ。
てれすも、わたしと同じことを思ったらしく、苦笑を浮かべていた。
「そうね。だから、今日もわたしにまかせて?」
「わかった。お願いするね」
「ええ。まかせて」
買い物かごをてれすにまかせて、わたしはバッグからお母さんにもらった買い物メモを取り出した。適当に足を進ませながら、それに目を通す。
「えっと、牛乳とヨーグルト。あとは卵か。あ、お菓子も」
卵に関しては、安売りされていて、おひとり様1つまでらしいから、てれすにも買わせて2つ買って来てと、具体的に記されていた。
ちょっとズルくないかなぁ、なんて思っていると、てれすが話しかける。
「……ありす」
「なぁに?」
「最後の、お菓子は書いていないんじゃないかしら」
「え? そんなこと、ないよ?」
「本当かしら」
「う、うん。ほんと、だよ?」
さすがてれす。
わたしはさっと、メモを背中側に隠した。
「ありす、見せて」
「え、いや、大丈夫」
「見せて」
「……はい」
てれすが向けてくるジト目に耐え切れず、観念したわたしは買い物メモを大人しく差し出した。
それを見たてれすは、小さく息を吐いた。
「……やっぱり。前もそうだったもの」
「そうだった?」
「ええ。間違いないわ」
「うぅ……」
てれすの記憶力だ。てれすが覚えているのならそうなのだろう。
というより、わたしも覚えている。プリンとかを買った記憶が残っている。
「まぁ、いいわ。早く買いましょう?」
「は、はい」
「どうして敬語なのかしら……」
それから、わたしたちは乳製品コーナーでヨーグルト、牛乳(もちろん、賞味期限が長いやつ)を買って、残りは卵だけとなった。
「あとは卵だね」
「ええ」
返事をして、てれすは周りを見回した。
「卵は、あっちみたいね」
「さすがてれす」
先に歩いてくてれすについていく。
そして卵のコーナーに到着した。
「あら?」
「どうしたの?」
「一人500円買わないと、卵が安くならないみたい」
「――ッ!」
500円か。今のところ、その金額には足りていない。
ということは、だ。
わたしの心を読んだのか、てれすがわたしに言う。
「そうね。そうしましょう」
「わーい」
わたしは卵を2パックかごに入れて、てれすとお菓子コーナーへと向かった。
勉強のお供に、甘いものがほしかったから、ちょうどいい。しかも、卵のために必要となれば一石二鳥かもしれない。
「ちょっと、待ってありす」
こうして向かったお菓子コーナーで、好きなチョコレート菓子をてれすの持っている買い物かごに放り込んでいく。
よし、しょっぱい系のお菓子も買っておこう。
「あ、ありす? 買いすぎじゃ……」
「大丈夫大丈夫」
「えぇ……」
「こんなもんかな。いこ?」
「え、ええ」
少し買いすぎちゃった気がしないでもないけど、足りなくなって卵が買えなくなるよりはマシだろう。
気にせずレジに向かった。
お金を払って、袋に買ったものを入れる。
卵は卵だけで、あとは牛乳とかヨーグルトとかを綺麗に入れていく。
すべてのものをレジ袋に入れると、てれすがすべての袋を持とうとしたので、慌てて卵の袋だけ握った。
「てれす、無理しないで?」
「そうね。ありがとう」
「ううん、そんなに持って重くない?」
「大丈夫よ」
「ほんと?」
「ええ。まかせて。ありすは、卵を守って」
「わかった」
少し心配だったけど、てれすの表情はいつも通り凛として美人さんだったので、てれすの言葉に甘えることにした。
お店から出て、帰路につくと思わず「ふふっ」と笑い声が零れてしまった。
「ありす?」
「あ、ごめん」
「いえ、どうしたの?」
「いや~、前も少し思ったんだけど、特に今回は焼肉とか特別なご飯の買い出しじゃないから、余計に思ったの。なんだか、てれすと家族になったみたいだなって」
「……家族?」
「うん。姉妹……いや、てれすと2人で暮らしたら、こんな感じなのかな」
「そ、そうかもしれないわね」
「あはは。帰ろっか」
てれすと2人暮らし。
高校生の今、できるとは思わないけど楽しそうだ。
残念だけど、今、お母さんがやっていることやお父さんがやっていることを二人だけでできるとは思えない。
しかし。学校だけでなくて、家でもてれすと一緒。
……いい。
そんなことを考えつつ、わたしとてれすはお家に向かった。




