127話 おつかいの途中で
「いってきまーす」
お母さんに見送られて、わたしとてれすはスーパーへと向かった。てれすと隣に並んで、同じスピードで足を進める。
てれすと一緒に我が家の買い出しを行うなんて、なんだかてれすと本当に姉妹になったみたいで、不思議な感じだ。
学校ではなく、最上家の日常にてれすが溶け込んでいることが嬉しくって、鼻歌混じりに道を進んでいると、隣のてれすが声をかける。
「ねぇ、ありす」
「なぁに?」
「その、勉強はしなくてもいいの?」
てれすは首をかしげて尋ねるけど、すぐに「ああ、いえ」と手を小さく振って、訂正する。
「別に、嫌とかそういうわけではないのだけど……」
「勉強会のお泊り会なのに、これでいいのかって、ことだよね?」
「ええ、そう。そう言いたかったの」
「うーん。もちろん、わたしもそうは思うけど、いいかなって」
「いいの?」
てれすは真面目だから、勉強会という名目でお泊り会をしているのに、昨日も今日も勉強漬けでないことに、不安を抱いているのだろう。
それはわたしも感じている。
勉強会って言っているのに、現状、わたしたちはおつかいをしている。おつかいを受けたのはわたしだ。 てれすの目に、わたしに勉強をする気がないと映っていても仕方がないことだった。
「正直、勉強ばっかりしても、おもしろくないかなって」
わたしもてれすも、特にてれすは、さすてれなので、こんなにたくさんの時間、勉強する必要はないと思う。それなのに、一日中勉強ばっかりで教科書とにらめっこというのは、きっとおもしろくない。
「わたしは、そんなこと……」
「ほんと?」
「ええ。わたしは、ありすと一緒なら、なんでも、好き」
「てれす……」
てれすの言葉に、はっとした。
そして、自分が間違えていることに気づいた。
「そっか。そうだよ、そうだよね。ごめん」
てれすがつまらないと感じている、とか勝手に思ってしまっていた。こんなにてれすと一緒にいて、恥ずかしい。てれすは自分が嫌だと思ったら、自分の口で嫌だとはっきり言うことができる子だ。
それなのに。
わたしは、てれすに変な気を遣ってしまっていたのだろう。
そして、勉強ばっかりでつまらないと感じていたのは、てれすじゃない。わたしだ。
せっかくてれすが来ているのに、ただ勉強をする。それだけでお泊り会を終わらせてしまうのが嫌だったのだ。
「ありす?」
「ごめん、てれす」
「いえ。何のことか、わからないけど、大丈夫よ」
不思議そうに首をかしげるてれす。
「あのね、てれす」
「なに?」
「わたしが、勉強ばっかりしたくなかったの」
「え?」
「てれすと一緒に、他の事もしたいなって。それなのに、てれすがつまらないかも、とか言って、てれすのせいにして勉強をしないなんて、サイテー」
「謝らないで、ありす」
「でも」
「いいの。ありすがわたしのために思ってくれたんでしょう? 嬉しいわ。それに、言ったわよね。わたしは、ありすと一緒ならなんでも好き。それに、嫌なことなら、わたしは絶対に嫌だとはっきり言うわ」
優しく微笑んで、言葉を発していくてれす。
最初から、ちゃんと正直に言っておけばよかった。
「てれす。わたしが勉強ばっかりが嫌だから、気分転換に買い出しに行こう」
「ええ」
「帰ったら、ちゃんと勉強もしよう」
「ええ」
「それじゃ、手を繋ごう?」
「ええ……え?」
「はい」
てれすに手を差し出す。
「いや、でも」
「いや?」
「……」
ぎゅっ。
遠慮がちに、てれすがわたしの手を握る。
「あ、そうだ。てれす」
「?」
「わたしも、てれすと一緒の時間好き」
てれすの目を見てはっきり言うと、てれすのほっぺたがみるみる赤くなっていくのが見て取れた。
照れてしまったてれすは、ぷいっと顔を逸らす。
それに苦笑いしながら、わたしは繋がっている手を「えいえい、おー!」と高く上げた。
「さぁ、買い物がんばるぞー」




